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アシドーシスとルーメンの健康に関する、国際カンファレンス

国際セミナーレポート

アシドーシスとルーメンの健康に関する、初の国際サテライトカンファレンス

 2018年9月6日に、アシドーシスとルーメンの健康に着目した初めての国際カンファレンスが行われました。このカンファレンスは、フランスのクレルモン-フェランにて、ラレマンドアニマルニュートリションとフランス国立農業研究所(INRA)によって共同開催されたものです。このカンファレンスは、第10回草食動物栄養国際カンファレンス[the 10th International Symposium on the Nutrition of Herbivores (ISNH)] 内で開催され、300人を超える反芻動物や飼養学の専門家や科学者が参加しました。さらにライブ映像が外部にも配信されました。

 

精度の高い飼養を目指す上で課題となるアシドーシスとルーメンの健康

  ルーメンアシドーシスは、牛の健康と生産成績に多くの影響を与える栄養障害として広く知られています。ルーメンアシドーシスは経済性にも甚大な悪影響をもたらしますが、その理解は十分ではありません。ラレマンドアニマルニュートリションとフランス国立農業研究所(INRA)は、2018年9月6日に、アシドーシスとルーメンの健康に関する、初の国際サテライトカンファレンスをフランスで開催しました。このイベントでは国際的に著名な専門家が集結し、アシドーシスに関する新しいデータを持ち寄った討論を行いました。

本カンファレンスで議長を務めたパドヴァ大学のGiulio Cozzi教授は、まず初めにこの10年の間にアシドーシスに関する論文数がどのくらい急速に増加したかを紹介しました。このような科学データの蓄積によって、今日アシドーシスの定義はより複雑となり、同時により深く理解されるようになりました。このカンファレンスでは、アシドーシスはルーメン内の微生物の不均衡を発端とし、消化管全体と宿主の生理と行動の恒常性に多くの影響を及ぼすことがはっきりと示されました。さらにリスクを緩和するための、農場レベルでの実践的な飼養管理や栄養についても議論されました。

pH値を超えた診断を

亜急性ルーメンアシドーシス (SARA)はルーメン微生物生態系に由来する問題であり、ルーメンpHはSARAの古典的な指標です。近年の研究では、ルーメンpHは値や平均値だけでは不十分で、動的な側面から見る必要があることが分かっています。ワイヤレスセンサー技術(留置型のルーメンpHと温度を測定する機器)の発達により、今日農場でルーメンの健康のリスクを早期に発見できるようになりました。フランスのINRA-UMRHに所属するClothilde Villot博士はこの技術を用いて、個体毎の変動を考慮した新しい数学的なアプローチを開発しました。「この新しい手法は、現在の指標を補完するものとなります。ルーメンpHの平均値やpHが5.6を下回る時間などは、唯一の指標ではないことを頭に入れておくことが必要です。採食行動や反芻活動など、ルーメンの健康に関わるその他の指標も測定するべきです。」と語りました。

アシドーシスのリスク要因は?

多かれ少なかれ、農場での様々な変化(飼料の変更、輸送、ペンの変更、飼料の移行、離乳、分娩など)は、ルーメン環境と微生物生態系に影響を与えるストレスであり、代謝障害につながる可能性があります。スペインのカタルーニャ州立農業研究所(IRTA)に所属するAlex Bach博士は、特に乳牛の乾乳期飼料から泌乳期用飼料への移行する時のルーメンの変化に焦点を当てています。内視鏡による生検により、彼のチームは近年、移行期が免疫バイオマーカーの遺伝子発現とルーメン壁の丈夫さに及ぼす影響を調べました。そして移行期がどのように、ルーメン上皮のタイトジャンクションを弱め、透過性を亢進させ、ルーメン壁の炎症に悪影響をもたらすかを示しました。

図1: 採食行動を定義する指標 (Nielsen 1999)

ゲルフ大学の Trevor de Vries博士は、牛が食べるものだけではなくどのように食べているかにも着目しています。「採食行動はとても大切です (図1)。総乾物摂取量だけではなく、採食している時間や頻度、そして反芻活動についても忘れてはいけません。飼料の切断長は、適切でなくてはいけません — ルーメン機能のために短すぎてはいけませんし、選び食いを避けるために長すぎてもいけません。これらの行動測定は、首に付ける反芻測定機器などの新しい技術によって、ますます簡便になってきています。近い将来、採食行動を測定することにより、農場での消化の問題を早期発見し、より優れた健康管理とSARAの予防に役立てることが出来るようになるでしょう。」と語りました。

SARAの悪循環: ルーメンと以降の消化管で何が起こっているのか

新しい分子生物学的手法(オミクス技術と次世代シーケンス技術)によって、ルーメン微生物の生態系はより理解されるようになり、宿主と微生物の複雑な関係が明らかにされてきました。カナダのアルバータ大学のLeluo Guan博士は、多層から成るルーメン壁と関連する微生物(エピミュラルマイクロバイオータと呼ばれる、上皮に付着するマイクロバイオータ)の機能の複雑さが、現在精査されている、と話しました。 ルーメン壁は、栄養素の吸収、エネルギー代謝、バリア機能などの代謝機能に重要な役割を持ち、ルーメン環境のバランス維持に貢献しています。

ルーメン環境が悪くなると、ルーメン壁のバリア機能と栄養素の吸収能力が低下します。ルーメン上皮組織の観察によると、アシドーシスはルーメン上皮の丈夫さを弱めることが示されています。カナダのサスカチュワン大学のGreg Penner博士は、 アシドーシスの影響について次のように説明しました。ルーメンpHが低下するとルーメン液の浸透圧とルーメン壁の透過性(上皮の漏れ)が増加します。結果として血中へのエンドトキシンの流入につながり、体全体の炎症の起因となる可能性があります。

Bach博士がリマインドするように、SARAは採食行動、反芻活動、総飼料摂取量に悪影響を与え、同時に乳固形分を低下させます。

治療よりも予防を

SARAの原因は多岐に渡るため、解決策も多方面からのアプローチが求められます。SARAは厳密に言えば病気ではなく、特定の原因物質はありません。しかし代わりに多様な側面を持つ障害です。

今カンファレンスでは、さまざまな解決策や戦略が討論されました。早期発見と予防が一番優れた対策であることは間違いありません。:

  • 飼料構成: 物理性に優れた粗飼料を十分に給与することによって、牛の好ましい行動パターンが促されます。好ましい行動パターンとは、よりゆっくりとした採食行動のことを指し、一日により頻繁に少量ずつ採食します。そして選び食いは避けさせるべきです。摂取する繊維の切断長が長くなり繊維摂取量が多くなれば、反芻が促されます (T. de Vries博士)。
  • 微生物への給餌: Bach博士は、飼料は牛のためだけでなく、ルーメン微生物のためにも設計するべきであると付け加えました。適切な繊維の切断長と量は、牛の摂取栄養量に影響を与えるだけではなく、ルーメン内での発酵速度にも影響を及ぼします。
  • 飼料添加物: オーストラリアのScibus 社に所属するHelen Golder博士は、地域の認可に基づいた飼料添加物(抗生物質、バッファー、生菌酵母などのプロバイオティクス、酵素など)の利点について語りました。その中で、生きた酵母がルーメンの健康の指標[例:ルーメンpH 、ルーメンpHの変動幅、炎症のシグナル(ヒスタミン)、採食行動 (Bach博士と De Vries博士)、反芻活動]、に及ぼす影響と作用機序について紹介しました。IRTAで行われたルーメンの内視鏡を用いた最近の研究では、ルーメン用の酵母Saccharomyces cerevisiae CNCM I-1077は、 移行期と分娩のストレスに対するより良いルーメンの準備を促した (上皮のタイトジャンクションの維持とルーメンの炎症状態の低下)ことが示されました。

 

結論

新しいワイヤレスセンサー技術(留置型のルーメンpHと温度測定器、反芻活動を測定する首輪など)の発展などにより、ルーメン微生物の生態系と宿主との密接な関わりについてより良く理解できるようになってきました。このような技術は、目に見える基準によって農場でルーメンの健康のリスクを早期に発見し、精度の高い飼養システムを構築する上で、大きな手助けとなっています。