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専門家に聞く:繊維の質と農場収益との関係

専門家に聞く:繊維の質と農場収益との関係

ウィリアム H. マイナー農業研究所(アメリカ、ニューヨーク)のリック グラント博士に、繊維の質と農場収益との関係について伺いました。

Rick GRANT About the link between fiber quality and farm profitability

インタビュイー: Rick GRANT, William H. Miner Agricultural Research Institute, Chazy, NY USA

Q. 乳牛飼養において、繊維の質は何に影響を与えますか?

最初に繊維の質について定義したいと思います。繊維の質には、固有の消化率あるいは難消化性が関係しています。一般的に難消化性は、「試験管内で240時間培養しても消化されなかった、非消化の中性デタージェント繊維(uNDF.240)」で表されます。この値は、作物の品種や生育環境、収穫時の成熟度、収穫の状態によって変わります。この値は、農場で使える便利な指標です。もう一つの重要な指標は、粒度(パーティクルサイズ)です。粒度は、物理的有効係数あるいは物理的有効繊維*(pef)として測定することが出来ます。

これらの2つを掛け合わせた指標「物理的有効uNDF.240 = pef x uNDF.240」は、乳牛の乾物摂取量やエネルギー補正乳量に大きく関わっていると考えられています。とりわけコーンサイレージと乾草サイレージベースの飼料では、関係性が強いようです。
*物理的有効繊維(pef : physically effective fiber):1.18 mm以上の網の上に残る乾燥繊維片画分

Q. 農場で繊維から得られるエネルギーと栄養素を最適化にするには?

繊維から得られるエネルギーを最適化するには、粗飼料繊維の特性と飼槽管理に着目しなければいけません。飼料中のでんぷん配合量は、重要なポイントです。なぜならルーメン発酵性のでんぷんが多すぎる場合、中性デタージェント繊維(NDF)の分解が遅くなると共に、ルーメンpHが低下するためです。近年の研究では、飼料中の「pef x uNDF.240」の含量が少ない場合、ルーメン発酵性でんぷんの配合量がわずかに高いだけでも、乳脂率が低下することが示されています。

給餌環境も、ルーメンpHに影響を与える重要な要因です。ルーメンpHの低下要因には、発酵飼料の給与、飼槽での過度の競争の発生、飼料へのアクセス制限などが挙げられます。このような管理条件下では、実際に繊維消化率が減少し、利用できる栄養素と産乳のためのエネルギーが減少しているかもしれません。この教訓は私たちに、飼槽管理の不備によって、高品質な粗飼料から得られる利益を減らしてしまう可能性があることを教えてくれます。

飼槽で採食に費やす時間は、飼料中の粗飼料の割合や、繊維の消化率、粒度に影響を受けます。飼料の咀嚼と嚥下に掛かる時間は、粗飼料品質を考えるうえで見逃されてきました。飼料中の繊維が長すぎる場合、採食時間と横臥反芻時間の間でトレードオフを引き起こす可能性があります。

Q. TMR(混合飼料)の粒度に関して、推奨値はありますか?

表1に、おすすめの飼料粒度分布を示しています。この分布に基づく飼料設計は、農場でとても良い結果を得ています。飼料の粒度分布がこの推奨内にあれば、牛は3~5時間以内に1日分の乾物摂取量を簡単に採食することができます。これは牛にとって自然な状態であり、横臥反芻時間も十分に取ることが出来ます。ゲルフ大学の研究では、横になって反芻する時間が長い乳牛ほど、より乾物摂取量が多く、より乳脂肪と乳たん白質量の多い乳を産生したことが報告されています(McWilliams et al., 2022)。

表1. TMR(混合飼料)にペンステートパーティクルセパレーター(PSPS)を用いた時の、おすすめの粒度分布

網の目の
大きさ(mm)
2013年時点の
推奨分布(%)
2020年時点の
推奨分布(%)
コメント
最上段 19 2~8 2~5 選び食い可能な長すぎる部分です。特に最上段の分布量が>10%の時は、採食に必要な時間が長くなります。
2段目 8 30~50 >50 まだ十分に長く、機能的な物理的有効繊維が含まれる部分です。3段目より分布量を多くします。この段には最も多くの飼料が分布するようにします。50-60%がお勧めです。
3段目 4 10~20 10~20 機能的な物理的有効繊維となる部分です。上3段に物理的有効繊維が含まれます。物理的有効繊維の合計量は重要ですが、この段のみの推奨分布量はありません。
最下段 30~40 25~30 配合飼料を40-50% 含む飼料では、少なくとも 25~30% が最下段に分布するでしょう。

(Cotanch, 2017; 2020年改訂)

投稿日 Apr 25, 2022 | 最終更新日 Jun 4, 2023

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