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飼料高騰:反芻動物の繊維消化率が重要に

飼料高騰:反芻動物の繊維消化率が重要に

本記事のオリジナルは、2022年1月27日にオンライン専門誌『Feed info news services』に掲載されたものです。発行元の許可を得て日本語に翻訳しましたので、ご紹介いたします。

英語の原文は下のリンク先から読むことが出来ます。
https://www.feedinfo.com/perspectives/high-feed-ingredient-prices-make-optimising-ruminant-fibre-digestibility-a-major-priority-industry-perspectives/271023

飼料価格の高騰で、反芻動物の繊維消化率の最適化が重要に

反芻動物の長所の一つは、ヒトを含めた他の動物にとってほとんど栄養価値のない植物や飼料を消化し、乳や肉という価値ある畜産物に変換できることです。しかし反芻動物の優れた消化システムを持ってしても、消化できる繊維には限りがあります。限界を克服し飼料消化率を一層高めることは、現代の動物栄養業界の目標です。ラレマンドアニマルニュートリションの反芻動物部門では、より良い農場経営と環境のために、飼料から最後の一滴まで栄養を抽出することを提案しています。

Feedinfoでは、生きた酵母の給与等がこの目標達成に向けてどのように役立つのか、そしてなぜ今重要性が高まっているのかについて、ラレマンド社にインタビューを行いました。

インタビュワー:Feedinfo社の記者

インタビュイー:ラレマンドアニマルニュートリション

  • マリー ヴァレンティナ グリカ/Marie-Valentine Glica(反芻動物製品戦略マーケティングマネージャー)
  • ロゴーン ドュセール/ Laurent Dussert(反芻動物製品マネージャー)

[Feedinfo] 飼料中の繊維消化率を最大限に高めることが、なぜ今、これまで以上に重要なのですか?

Marie-Valentine Glica
Global Strategic Marketing Manager for Ruminant Feed Additives Lallemand Animal Nutrition

[Marie Valentine Glica] この1年余り、購入飼料(穀物または配合飼料に使われる飼料原料)の価格が大幅に上がっています。粗飼料のような自給飼料と比べると 、その差は顕著です。原油価格が高騰していることを考えると、この状況はしばらく続きそうです。なぜなら燃料価格の上昇は、農業機械の燃料等の諸費用の上昇を招き、直接、作物価格に影響するためです。また燃料価格が高いと、バイオ燃料やバイオガス用のエネルギー原料需要が拡大し、原料確保競争が激しくなることも、飼料価格高騰につながっています。

飼料価格が2020年に比べて20~30%急騰している現在、粗飼料と配合飼料からエネルギーを最大限に抽出することは極めて重要です。農場収益、あるいは収益から飼料費を差し引いた実質的な利益に、直接的に貢献できるでしょう。粗飼料は自家生産できる場合もありますし、配合飼料よりは手頃な価格で入手することができます。農場の持続可能性(環境、資産、経済のバランスを取りながらの経営持続性)を向上させるためには、粗飼料からより多くのエネルギーを抽出することをお勧めします。牛は粗飼料を糧とする動物です。反芻動物の消化システムの長所は、微生物の活動を通じて繊維を分解・発酵できることです。反芻動物はエネルギーの大部分を繊維から得ています。飼料設計の目標は、飼料や粗飼料中の繊維成分からより多くのエネルギーを取り出すために、繊維消化率を最大化することです。これは、飼料効率の改善につながります。

[Feedinfo] 副産物飼料(例えば、ビートパルプ、シトラスパルプ、ビール粕)の利用については、どう思いますか?

[Marie Valentine Glica] 食品副産物は、古くから畜産飼料に用いられています。反芻動物は、セルロースを含めた繊維を消化することができる、唯一無二の能力を持ちます。人の食べ物にできない副産物を、乳や肉といった食品に変換できるのです。ライグラス、アルファルファ乾草、コーンサイレージといった伝統的な粗飼料だけでなく、ビートパルプ、シトラスパルプ、繊維を多く含むビール粕等の食品副産物も、牛の重要な飼料です。ルーメン内での繊維分解について理解を深めることは、繊維消化率の最大化という目標達成に役立ちます。エネルギー源になる繊維を未消化のまま残すのは、避けたいところです。

人間が食べられない副産物を飼料として活用していくことは、食品原料の奪い合いを減らすことにもなります。つまり高い価値を持つ動物性タンパク質を、持続可能な方法で得ることにつながります。

[Feedinfo] 飼料原料の確保が難しくなっている今、生きた酵母等の給与による飼料効率改善についての市場の関心について教えて下さい。粗飼料の価格が高騰していたり、入手に問題を抱える地域の方が、関心は高いのでしょうか?例えば、干ばつやサプライチェーンの問題がある地域、あるいはマクロ経済的要素を抱えている地域などです。

Laurent Dussert
Global Category Manager for Ruminants Lallemand Animal Nutrition

[Laurent Dussert] 反芻動物飼養は、世界的に大幅な飼料効率の改善が成し遂げられています。今後もその改善は続くでしょう。飼料効率の改善とは、土地面積あたり、あるいは飼料kgあたりの畜産物生産量を最適化することです。これは持続可能性に貢献し、世界の増えゆく人口の食品需要を満たすことにつながります。科学に基づいた栄養戦略を実践してきた成果です。地域の自給飼料の消化率を高めることは、農家の飼料コスト差し引き収入(Income Over Feed Cost, IOFC)を向上させる重要な原動力です。自然生態系と環境にも貢献します。干ばつや暑熱ストレス等の環境問題がなくても、飼料効率改善の重要性は変わらないでしょう。

反芻動物の飼料設計では、飼料原料および粗飼料の価格と、飼料消化率のバランスが問われます。飼料効率を悪化させることなく、状況に応じて飼料原料を切り替えることができれば、飼料設計の柔軟性が増します。これは農場主にとって良いことです。

[Feedinfo] 反芻動物の繊維消化率の最大化において、レブセルSCが果たす役割を教えて下さい。

[Laurent Dussert] ルーメン用の生きた酵母レブセルSCサッカロマイセス セルビシエ CNCM I-1077)は、ルーメン調整材とも呼ばれます。この機能性飼料は、牛のエンジンであるルーメン機能を最適化します。レブセルSCは、繊維消化率を上昇させることによって、飼料からエネルギーへの転換効率を大きく向上させます。レブセルSCを給与された反芻動物は、ルーメン内の繊維分解菌(真菌と細菌)の数が増え、その繊維分解活性も高まります。サッカロマイセス セルビシエ CNCM I-1077は、特定のルーメン細菌と真菌の繊維片への定着を促し、増殖を促し、繊維分解酵素活性を高めることにより、繊維分解を促進します。生きた酵母レブセルSCは、微生物による繊維分解活動の促進と、最適なルーメン環境作り(ルーメンpHの安定化)に貢献します。この菌株は、フランス国立農業・食糧・環境研究所(INRAE)との協力の下で発見されました。以降25年以上の間に、100本以上の科学論文を通じて、機能と作用機序が実証されています。

レブセルSCの給与によって、飼料中の粗飼料割合を最大限にまで高めることが可能となります。さらに、飼料kgあたりの乳肉生産量を高めたり、生産量を維持しつつ飼料費を削減することが可能になります。標準的な、あるいはストレスのある飼養環境において、レブセルSCは飼料効率を3~7%改善します。

[Feedinfo] 生きた酵母の添加による飼料消化率の改善を、簡単に確認することはできますか?どのようなツールを使えば、確認できますか?

[Laurent Dussert] 私たちは長い年月をかけて、レブセルSCが粗飼料および飼料原料の繊維消化率に及ぼす影響を調べてきました。そして生体内での(in vivo)繊維消化率について、充実したデータベースを構築しています。 これらのデータを基にすると、生きた酵母がどの程度各種飼料のエネルギー価を上昇させるかについて、推測することができます。飼料原料の種類や粗飼料の質によって変わりますが、レブセルSCはエネルギー価を3~8%上昇させます。そして改善率は、元々の繊維消化性が低い粗飼料ほど大きくなることが分かっています。またレブセルSCには、pH安定化効果があることが証明されています。そのためアシドーシスの恐れがある飼料条件下では、レブセルSCは繊維消化率を一層改善します。

ラレマンドアニマルニュートリションでは、生きた酵母を配合した飼料を設計する際に役立つ「レブセルSCサブモデル」を開発しています。このサブモデルでは、繊維消化率(NDFd)から、生産成績に及ぼす影響を予測することができます。このサブモデルの開発には、例えば乳牛の場合、レブセルSCの給与が乳量、乳成分率と量、飼料効率に与える影響を調べた複数の研究結果の分析が必要でした。このサブモデルを用いると、飼料にレブセルSCを加えた場合の、飼料消化率、飼料効率、飼料コスト差し引き収入への効果を予測できます。これは目的に合わせた飼料設計を助け、精密な栄養管理の実現に貢献します。 飼料設計の目的には、同じ飼料費で乳量を増やしたい、あるいは飼料費を最低限に抑えたい、などが挙げられるでしょう。

[Feedinfo] 繊維消化率の最大化に役立つ解決策として、他にどのようなものがありますか?

[Laurent Dussert] 繊維に着目した場合、粗飼料の品質を高めることでも飼料効率の改善が可能です。粗飼料を適切に収穫し保管することで、繊維からより多くのエネルギーを抽出できるでしょう。ラレマンドアニマルニュートリションでは、乳酸菌配合のサイレージ調製材マグニバ(MAGNIVA)を提供しています。この科学的に効果の証明されているサイレージ調製材は、粗飼料の栄養価の維持、乾物損失の抑制、好ましくない微生物によるサイレージの変敗防止に役立ちます。これは収穫収量あたりで、利用可能エネルギー量を最大化することにつながります。

[Feedinfo] 反芻動物の繊維消化に関して、近年で最も重要な発見にはどのようなものがありますか?ラレマンド社はどのような研究を行ってきましたか?

[Laurent Dussert] ラレマンド社の反芻動物Center of Excellence研究チームは、世界各国の大学や研究機関と連携し、様々な研究を実施しています。例えば、多様な条件の下での飼料原料や粗飼料の消化率を、生体内(in vivo)及び試験管内(in vitro)で測定し、データを集積し続けています。こうした広範な応用研究に加えて、最新のオミクス(OMICS)技術や研究プラットフォームを活用して、ルーメン内のマイクロバイオータの相互作用や機能の解明に努めています。実例として、飼料変更や出産といったストレス時の微生物群の変化がもたらす影響を理解し、微生物群の様々な変化の関係性、飼料の消化性への影響、動物への負の影響を緩和するための対策を明らかにしようとしています。レブセルSCによる飼料消化率の改善データは、飼料設計ソフトウェアのサブモデルに反映させています。これによって、最適な生産成績、あるいは最適な飼料コスト差し引き収入を得るための飼料設計を行えるようになります。

[Feedinfo] 得られた新しい発見は、実際の反芻動物の飼養管理に導入したいですよね。ラレマンド社では、業界全体への啓蒙をどのように行っていますか?

[Marie Valentine Glica] 当社では、教育、とりわけ専門家のネットワークを介して、研究に基づく知識を現場に伝えています。当社の専門家は、農場の飼料設計担当者と密接に関わっています。得られた科学的知見を応用するために、個別の飼料や農場の条件に合わせた野外試験を実施することもあります。最新の科学的知見を、各農家の状況に合わせて意味のあるものにすることは、ラレマンドアニマルニュートリションの重要な使命です。前述したレブセルSCサブモデルは、酵母に関する知見を農場現場で利用するためのツールの一例であり、精密な飼料設計の優れた実用例でもあります。

消化率に関するラレマンド社の研究は、粗飼料側と動物側の両面に渡っている点でユニークです。当社では繊維のライフサイクルに関する知識を共有するために、各地域の栄養の専門家たち及び国際的な学術研究者たちと、一連のウェビナーを開催しました。実際に招へいした講師には、例えば、米・マイナー研究所のリック グラント博士や、INRAEおよびラレマンド社のフレデリック チャウチェイラス–デュランド博士などが挙げられます。ラレマンド社は世界各地において、顧客や現地の専門家のための会議、研修、技術ガイドの提供に取り組んでいます。

繊維消化率は、飼料と育種の双方の観点から真剣に考えることが、これまで以上に急務です。そして環境面および経済面から、畜産の持続可能性の向上を図ることが望まれます。 粗飼料から最後の一滴まで栄養を絞り出すことは、土地の利用性の改善につながります。また地球温暖化ガス産生の観点からも、環境負荷の低減に役立ちます。世界の場所によっては、悪化している農場の経営収支を支えるためにも重要でしょう。ラレマンド社では、この考え方を広く普及し、今後も新たな知見と解決策の探索を続けたいと思っています。

Copyright 2022.  Feedinfo News Service. Original in English; Feedinfo does not vouch for the accuracy of this translation.

投稿日 Jan 9, 2023 | 最終更新日 Jul 9, 2023

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