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養豚において、栄養面から暑熱ストレスを緩和する
豚は機能的な汗腺を持たないため、他の畜産動物と比べて生理学的な暑熱ストレス耐性が低いことが分かっています(Cottrell et al., 2015)。暑熱ストレスに対処するために、適切に設計された飼育施設や管理方法が重要です。
暑熱ストレスが豚に及ぼす悪影響を緩和するためには、総合的なアプローチが必要です。その一つとして、栄養面からも対策することがおすすめです。
たんぱく質
暑熱ストレスによる影響を軽減するための栄養面からの対策として、飼料中の脂肪、タンパク質、繊維の含量を変える方法があります。例えば、飼料中のタンパク質含量を減らすことで、タンパク質の消化代謝による食後の熱産生反応を抑えることができます。これは、暑熱ストレスによる悪影響の軽減につながります(Dunshea et al., 2007)。
食物繊維
食物繊維の含量が多い場合、大腸で繊維発酵による熱が産生され、暑熱ストレスにさらされた母豚の体重が減少します(Renaudeau et al., 2003)。脂質の代謝および同化による熱産生量は、タンパク質や繊維と比較すると低値です。飼料中の脂肪含量を増やし、タンパク質と繊維の含量を減らした飼料を配合することにより、摂食による熱産生量を減らすことができます。
抗酸化物質
その他の栄養面からの対策としては、抗酸化物質、クロムおよび/またはベタインの給与などが考えられます。暑熱ストレスと酸化ストレスの関係性については、豚においても多くの報告があります(Rhoads et al., 2013; Montilla et al., 2013, 2014; Liu et al., 2015a)。暑熱ストレス下では、フリーラジカル(活性酸素種)の産生と抗酸化能のバランスの失調が起こります。飼料によって抗酸化物質を補給することで、酸化ストレスによる損傷を軽減することができます。
クロム
夏季の飼料にクロムを添加することで、暑熱ストレスによる悪影響を軽減することができます(Hung et al., 2010, 2015)。クロムは、インスリンと細胞の受容体との結合を促進することで、インスリン感受性を高めます。さらにクロムの添加によって、動物が暑熱ストレスにさらされた時の血漿中コルチゾールレベルを低下させることができます(Chang and Mowat, 1992; Samanta et al., 2008; Zha et al., 2009: Hung et al., 2014)。コルチゾールは、インスリンの作用を阻害します。コルチゾールを減らすことで血漿中のグルコース濃度を下げることができ、末梢組織でのグルコースの利用性が高まります。すなわち、インスリン感受性が改善されます。
べタイン
ベタインは、細胞の浸透圧調節に関与し、幾つかの代謝反応において重要な役割を果たします。特にベタインには、細胞のイオン輸送に必要なエネルギーを軽減する働きがあります。この働きによって、全身のエネルギーの約8%を節約し(Cronje, 2005)、代謝による熱産生量を低減することができます。
生きた酵母レブセルSB
生きた酵母サッカロマイセス セルビシエ 変種 ブラディアイ CNCM I-1079(レブセル SB)は、暑熱ストレスに対する豚の良好な適応を促します。レブセルSBを摂取した母豚では授乳成績が改善し、肥育豚では飼料効率が高まります。
- 1)腸管の健常性の維持
豚にレブセルSBを給与すると、暑熱ストレス下でも腸管の健常性を保つことができることが分かっています。暑熱ストレス下では、対流、伝導、放射による熱交換(顕熱放散経路と呼ばれる)を最大化するために、皮膚表面に向かう血流が促されます。血液を抹消組織に循環させるために、消化管の血管収縮が起こり(Tang et al., 2022)、腸管上皮の健全性に負の影響が及びます(Lambert, 2009)。その結果として栄養素の吸収が減少し、増体成績や飼料効率が低下します。暑熱ストレスによって、腸管の健全性が脆弱化すると、病原菌や毒素に対する腸管上皮の透過性が増加することが分かっています(Cui and Gu 2015, Varasteh et al., 2015)。炎症反応や、サイトカイン産生(IL-6、IL-1β、TNF-αなど)が促され、重度の場合にはリーキーガット症候群や下痢につながります(図1)。図1. 暑熱ストレスが、腸管バリア機能に及ぼす負の影響
豚への暑熱ストレスにより、腸管の透過性が高まった結果として、血中エンドトキシン量が50%増加し、病原菌の移行により全身性炎症が引き起こされたという報告もあります(Gabler et al., 2018)。炎症反応は、増体に用いるためのエネルギーを浪費することにつながります。腸管の健常性を保つことは、飼料効率の改善に良い影響を与えます。
- 2)代謝反応の調節
暑熱ストレス下の豚にレブセルSBを給与すると、無添加の場合よりもインスリン感受性と飲水量が高まる一方で、皮膚表面温度と体温が低下することが確認されています。体温を調節し体内の水分バランスを維持する上で、水による熱交換は重要な役割を果たします。暑熱ストレス下においては、蒸発が放熱の最も重要なメカニズムとなります。実際に周囲の環境温度が高くなると、豚の水分要求量は増加します。例えば周囲温度が20℃から29℃に上昇すると、母豚の飲水量は、飼料摂取量1 kgにつき4 Lから8 Lへと倍増します(Renaudeau et al., 2001)。さらに調査は必要ですが、生きた酵母レブセルSBはインスリン感受性を維持することで、暑熱ストレス下での豚の飲水活動を促し、体温低下に良い影響を与えていることが推測されます。結果としてレブセルSB添加群の豚は、より頻繁に少量ずつの飼料を摂取するようになり、1日の飼料摂取量が多くなります。この適応は、暑熱ストレス期間のエネルギー効率の改善に寄与する可能性があります(図2)。
図2. 暑熱ストレス期における、生きた酵母レブセルSBの働き
養豚業界において暑熱ストレスは、ますます大きな問題になっています。世界的な気温の上昇によって、養豚業界は毎年多額の損失を被っています。豚は、暑熱ストレスに適応するために飼料摂取量を減らし、その結果として日増体量が低下します。腸の機能を維持するためのエネルギー供給は後回しにされ、飼料効率が低下します。暑熱期でも最適な腸管の健常性と代謝反応を維持するためには、生きた酵母レブセル SBの給与が有効です。
生きた酵母レブセルSBについてのより詳しい情報は、
こちらをご覧ください。
投稿日 Apr 18, 2023 | 最終更新日 Jul 10, 2023