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フリーラジカル産生と体内の防御システム
はじめに
フリーラジカルを含めた活性酸素種 (ROS) は、自然な生命活動の結果として発生します。ROSは動物の体の細胞内、特にエネルギーが合成されるミトコンドリア内において、代謝の副産物として産生されます。通常であれば、体は体内で合成される抗酸化酵素や摂取した抗酸化物質によって、ROSを消去しています。しかし生体内のROSの産生の亢進や、抗酸化防御システムの低下によって両者のバランスが崩れると、酸化ストレスが生じ得ます。
ミトコンドリア:体内におけるエネルギー産生とROSの発生
どんな生物も生きるためにはエネルギーを必要とし、体内に取り込んだ食物は細胞が利用しやすい形のエネルギーに変換されます。この変換プロセスの多くは、ミトコンドリアと呼ばれる細胞内の小器官で行われます。ミトコンドリアは、ATP(アデノシン三リン酸)という形のエネルギーを合成します。ROSはこのATP合成過程における正常な細胞活動の副産物であり、ミトコンドリア内のいくつかの場所でスーパーオキシドラジカル(•O2-)が発生します(図1)。この時、正常な生理状態の下にあるミトコンドリアは、複数種類のグルタチオンペルオキシダーゼ (GPXs)やスーパーオキシドディスムターゼ (SODs)、カタラーゼ (CAT)、その他の抗酸化物質等の防御システムによってROSから守られています。しかしミトコンドリア内のROSが産生過剰になったり、抗酸化物質が不足した場合には、過剰なフリーラジカルがミトコンドリアから放出され、ミトコンドリア自身を含めた様々な細胞部位に損傷を与えます。
- ミトコンドリアは細胞エネルギーを合成し、プログラムされた細胞死(アポトーシス)を制御する
- 呼吸鎖(電子伝達系)の中で電子が失われ、ROSが増加する
- 抗酸化防御が不十分な場合、過剰に発生したROSによって連鎖的な酸化反応が始まる
細胞内のミトコンドリアの数は、細胞の種類とそのエネルギー必要量に応じて変わります。細胞によって、ミトコンドリア数が数百個である細胞もあれば、何千個もある細胞もあります。:
- 筋細胞:筋細胞は多くのエネルギーを必要とするため、何千個ものミトコンドリアを有します。筋細胞が収縮し機能するためには、相当のエネルギーが必要だからです。
- 肝細胞:多様な代謝機能を担う肝細胞も、ミトコンドリアの数はかなり多く、数百から千個以上になります。
- 神経細胞:神経細胞又はニューロンは、エネルギー生産よりも電気信号の伝達を主な仕事としているので、筋肉や肝臓の細胞に比べると、ミトコンドリアの数は一般的に少ないことが知られています。
- 赤血球:成熟した赤血球は、酸素を体内に運ぶことが主な役割であるため、酸素をエネルギー合成に用いるミトコンドリアは全く存在しません。
- 卵母細胞:成熟した卵母細胞には、10万個ほどのミトコンドリアが存在します。哺乳動物の細胞の中で、最も多くのミトコンドリア数を有しているのが卵母細胞です。
生体内の抗酸化防御システム
フリーラジカルによる酸化ストレスに対抗するために、細胞には、 酵素 (例えば、スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ)および非酵素(例えば、ビタミンA・C・E、ポリフェノール)による、抗酸化防御システムが備わっています(図2)。
抗酸化酵素(一次抗酸化物質とも呼ぶ)は体内で合成され、ミトコンドリアを含む細胞質内に存在します。これら一連の抗酸化酵素は、直接ROSを無毒化することができます。例えばスーパーオキシドラジカ(•O2–)は、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H2O2 )に変換され、続いて過酸化水素はカタラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼによって水と酸素に変換されることで無毒化されます(図4)。一連の抗酸化酵素による直接的なスーパーオキシドラジカルの消去は、もっとも傷害性の高いヒドロキシラジカル(•OH)の発生自体を、予防あるいは最小化します。
他方で非酵素性の抗酸化物質(二次抗酸化物質とも呼ぶ)には、体内で生成されるものと食物から得られるものがあります。これらはヒドロキシラジカル(•OH)などのラジカルを消去することによって、フリーラジカルによる連鎖的な酸化反応の進行を抑えます。このような働きは、細胞膜やDNAといった細胞の構成成分の保護にもつながります。しかし一連の抗酸化酵素はROSを無毒化できるのに対して、二次抗酸化物質は1つの活性部位でたった1分子のラジカルを捕捉することしかできません。
抗酸化防御システムは、一次抗酸化物質と二次抗酸化物質の両方によって構築されています(図3)。
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<参考文献>
- Iakovou Evripides and Kourti Malamati. A Comprehensive Overview of the Complex Role of Oxidative Stress in Aging, The Contributing Environmental Stressors and Emerging Antioxidant Therapeutic Interventions. Front. Aging Neurosci., 13 June 2022 https://doi.org/10.3389/fnagi.2022.827900
投稿日 Feb 3, 2025