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Expert interview:これからの乳牛への給餌
トレバー デブリス教授 (カナダ ゲルフ大学)
Trevor DeVries, professor at the University of Guelph (Canada)
牛への給餌とは、ルーメン微生物への給餌に他なりません。健康なルーメンとは、どのような状態ですか?
健康なルーメンとは、高い乾物摂取量(DMI)が維持されていると同時に、微生物数が安定している状態です。この状態において牛は、摂取飼料を効率的に消化することができます。乳牛の栄養管理では、ルーメン内の酸蓄積量の大きな変動を防ぐ必要があります。なぜならルーメン内のpHが低いと、生息する微生物とルーメン壁の健常性に悪影響が及び、乳脂率や消化効率の低下の原因となるためです。現代の乳牛はその高泌乳ゆえに、全ての状況においては負のエネルギーバランスやルーメンの問題を防ぐことはできません。しかしルーメンの問題が、他の体の健康に悪影響を及ぼす臨界点を超えないようにすることが重要です。現代の乳牛は、常に体やルーメンに負荷がかかっています。私たちは、それを上手に扱う必要があります
不健康な状態のルーメンは、不規則な採食行動、ルーメン微生物構成のバランスの悪化、飼料効率の低下などを招き、悪循環をもたらします。全てのバランスが重要です。ルーメンの機能と健康には、飼料構成だけでなく、牛の摂食行動も影響します。両方を考慮することが重要です。
採食行動が重要である理由は?
牛の行動や性格には、個体による幅があります。例えば群れの中での行動や、大胆さと内気さは、個体によって異なります。このような個体差は、搾乳ロボットの使い方や、餌をどれだけの量どれだけの頻度で採食するかなどに反映されます。
摂食行動は、乾物摂取量(DMI)に影響を与えることが分かっています。そして乾物摂取量は、直接的に乳量に反映されます。乾物摂取量を高めたいのならば、採食のタイミングや量などの、牛の採食行動に目を向ける必要があります。採食行動をより上手に管理することができれば、生産性が向上するでしょう。
私たちの研究では、1日あたりのDMIが多い個体に最も一貫して関連が見られる行動は、1日あたりの採食時間が長く、1日により頻繁に採食することであることが示されました。興味深いことにこのような採食行動パターンは、より安定し一貫したルーメン環境にもつながります。
各摂食の後における、牛の行動についても忘れてはいけません。牛が快適に横たわって反芻するための、時間とスペースが十分であることが必要です。反芻の中でも、特に横臥しながらの反芻は、乾乾物摂取量の増加にも関連しています。飼料、牛舎、飼養管理を通じて採食行動をわずかに修正するだけでも、大きな改善につながることがあります。
乳牛において精密給餌はできるのでしょうか?
精密給餌とは、適切な栄養素を、適切な時間に、適切な牛に与えることです。乳牛において、これはまだ難しいことです。理想的なシナリオは、 個々の牛の栄養要求にぴったりと合わせた、オーダーメードの飼料を個別に給与することです。私たちはある程度までは、個体毎に補助飼料を与えたり(例:搾乳ロボット)、泌乳ステージや乳量レベルを揃えた群を作ることで、精密給餌を実現することができます。こうすることで、餌の過不足を防ぐとともに、飼料効率と費用対効果を改善することができます。
特定の群への給餌は、精密給餌に向けた大きな前進であり、既に大規模酪農場ではより一般的な方法になっています。しかし個体に個別の餌を給与することは、実際には困難です。私は乳牛への精密給餌を改善させるために、技術やセンサーを使うことに大きな可能性を感じています。 牛の採食時間や反芻時間を測定することは、採食行動の役割についてのデータと気づきをもたらします。私たちはこれを用いて飼料構成や飼料管理を調節したり、例えば適切な飼養密度などを検討できるようになるでしょう。乳牛の精密給餌の実現には、飼料と非飼料の要因をより良く把握することが大切になります。
精密給餌の栄養学的な側面においては、特定の飼料添加物も重要です。特に、適切な牛に、適切な時間に給餌したいときに有効になるでしょう。生きた酵母のような飼料添加物は、乳牛のルーメンpHを高く安定化し、反芻を増加させることによって、乳脂肪率の増加などに役立ちます。
今後数年間で、乳牛の精密給餌の技術は大きく発展し成長していくでしょう。私は期待で心が弾んでいます。
投稿日 Jan 10, 2024 | 最終更新日 Oct 10, 2024