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暑熱ストレスによる豚の生産成績の低下を緩和する生きた酵母の作用機序
暑熱ストレスは、豚の摂食行動、増体、動物福祉に負の影響を与え得るため、養豚業界にとって大きな問題となっています。暑熱ストレス下の豚には、生きた酵母サッカロマイセス セルビシエ ブラディアイCNCM I-1079(レブセルSB)を給与することがおすすめです。この度、ラレマンド社がサポートした4年間にわたる研究の結果、暑熱ストレス下におけるレブセルSBの作用機序の一つが明らかになりました。
この研究はフランス国立農業・食料・環境研究所(INRAE)の博士課程の学生であったAira Servientoが、Etienne LabussièreおよびDavid Renaudeauと共同で実施しました。レブセルSBを暑熱ストレス下の仕上げ期の雄豚に給与すると、インスリン感受性が向上し、これによって暑熱ストレスによる生産成績への負の影響が緩和されることが判明しました。
今回の記事ではこの研究結果をより詳しく解説します。生きた酵母の飼料添加が豚の暑熱ストレスへの適応を高め、全体的な健康を維持し生産性を向上させる仕組みについて、新たに解明された貴重な情報を共有します。
- インタビュワー:Feedinfo社の記者
- インタビュイー:ラレマンドアニマルニュートリション
・ブルーノ ベルト―/Bruno Bertaud 酵母派生物と養豚製品の技術マネージャー
・デイビッド ソニレ/David Saornil グローバル養豚応用マネージャー
[Feedinfo]Bertaudさん、まず、豚は何度くらいの気温で暑熱ストレスの兆候を示し始めますか?そして、腸の健康状態にどのような影響があり、また、その結果としてどのようなことが起こり得るのでしょうか?
[Bruno Bertaud]暑熱ストレスは気温だけの問題ではなく、相対湿度も考慮しなくてはなりません。母豚は25℃未満でも暑熱ストレスで苦しむこともありますが、肥育豚は周囲の気温が25℃を超えると暑熱ストレスがかかるようになります。
暑熱ストレス下では、熱交換を最大化するために皮膚表面への血流が増えます。これにより、末梢組織へ血流を循環させるために胃腸管では血管収縮が起き、これが腸壁構造の健全性を阻害します。このことは、生産成績と健康の両面でいくつかの影響をもたらします。第一に、栄養吸収が低下し、これは増体の低下につながります。第二に、病原体や内毒素が腸上皮を透過しやすくなり、これらが血流中へと移行します。これが炎症反応を引き起こし、炎症促進性サイトカインの生産が増え、より重症な場合には、リーキーガットや下痢が起きます。最終的に、炎症反応によって、成長に向けられる飼料エネルギーが減少し、肥育豚では生産成績がより一層低下します。

[Bruno Bertaud]暑熱ストレスは気温だけの問題ではなく、相対湿度も考慮しなくてはなりません。母豚は25℃未満でも暑熱ストレスで苦しむこともありますが、肥育豚は周囲の気温が25℃を超えると暑熱ストレスがかかるようになります。
暑熱ストレス下では、熱交換を最大化するために皮膚表面への血流が増えます。これにより、末梢組織へ血流を循環させるために胃腸管では血管収縮が起き、これが腸壁構造の健全性を阻害します。このことは、生産成績と健康の両面でいくつかの影響をもたらします。第一に、栄養吸収が低下し、これは増体の低下につながります。第二に、病原体や内毒素が腸上皮を透過しやすくなり、これらが血流中へと移行します。これが炎症反応を引き起こし、炎症促進性サイトカインの生産が増え、より重症な場合には、リーキーガットや下痢が起きます。最終的に、炎症反応によって、成長に向けられる飼料エネルギーが減少し、肥育豚では生産成績がより一層低下します。
[Feedinfo]豚が暑熱ストレスを繰り返し経験することによる健康への長期的影響はありますか?母豚及びその産子についてはどうでしょう?
[Bruno Bertaud]暑熱ストレスは、増体、繁殖、豚肉の成分組成を含め、様々な生産指標に悪影響を及ぼします。夏期の熱波は、生産成績及び生理的応答に対して長期にわたって影響を残すことがあります。母豚が暑熱ストレスに晒されると、出生後の子豚の生産成績に長期にわたる負の影響が及ぶことが示されています。

[Feedinfo]暑熱ストレスを軽減する上で、栄養戦略の効果は、どれほどあるものでしょうか?環境管理をしっかり行うといった介入の仕方で十分ではないのですか?
[Bruno Bertaud]もちろん、環境の管理、特に畜舎(隔離、気温、冷却システム等)の管理は、暑熱ストレス予防に欠かせず、第一に考えなくてはなりません。栄養戦略は、総合的な管理戦略の中の一つとして考えるべきものです。さらに長期的には、動物の遺伝子(暑熱ストレスに強い系統の選抜)も考える必要があります。

[Feedinfo]レブセルSBに関してですが、生きた酵母の添加が暑熱ストレス下の豚の生産成績にどう影響するかを簡単に教えていただけますか?
[Bruno Bertaud]生きた酵母サッカロマイセス セルビシエ ブラディアイCNCM I-1079は、単胃動物において最も多くの裏付けデータが揃っているプロバイオティクス酵母株です。腸の健康に対する有益な効果が、50本以上の科学論文で報告されています。
暑熱ストレス下において、サッカロマイセス セルビシエ ブラディアイは最適な腸バリア機能の維持を助けることで、病原体の内毒素が血流へと移動し炎症を起こすリスクを軽減します。
生きた酵母の給与は、授乳期の母豚や肥育豚の成績に対して様々な有益性があることが実証されています。これらの有益な働きは、暑熱ストレス下で飼料摂取量が減少して生産成績が低下しがちな時でも、変わらずに発揮されます。実際、世界各地で実施されてきた数多くの試験において、母豚の飼料摂取量、生存産子数、母豚のコンディション、離乳子豚数などに対する有益な効果が確認されています。
[Feedinfo]ラレマンド社が近年支援した4年がかりの研究では、特に、生きた酵母が暑熱ストレスに晒された豚をどう助けるのか?という作用機序に焦点が当てられました。この研究にはどのような意味があったのでしょうか?そして、主にどのような結果が出たのか、ご紹介いただけますか?
[David Saornil]はい。私たちはINRAEと共同で、生きた酵母が豚のエネルギー代謝と暑熱耐性に与える効果の根底にあるメカニズムの解明を目指し、4年間にわたる研究プログラムを支援しました。このプログラムの中では、暑熱ストレス条件下の仕上げ期の雄豚に生きた酵母(レブセルSB)を給与し、代謝チャンバーを用いて飼料摂取頻度を含めた評価を実施しました。
この試験では、酵母を給与された豚は、給与されていない対照区の豚に比べて、暑熱ストレスに対する適応に優れていたことが示されました。これは、過去の他の試験でも明らかにされてきた通りです。今回は、さらに、代謝の作用機序に踏み込んで調べました。その結果、生きた酵母を与えられた豚ではインスリン感受性が改善し、それが暑熱ストレス耐性の向上に寄与していることが新しく分かりました。また、生きた酵母を与えられた豚は、潜熱放散‐即ち肺における水の蒸発‐からの熱放散をより効率良く行うことができており、そのため、食後の体温の戻りが速かったことが実証されました。
この研究では、生きた酵母による、豚の摂食行動、代謝、増体成績への影響の評価も行われました。暑熱ストレス下では、豚の飼料摂取量は減り、増体に用いられるエネルギーが減少します。しかし、生きた酵母を与えられた豚では、暑熱ストレスによる飼料摂取量への負の影響は軽減され、食間の時間が短くなりました。酵母を与えられた豚の方がより頻繁に摂食すること、そして、それによって総飼料摂取量が増加することは、Labussièreらも、同様の条件下で、2022年に明らかにしています。
生きた酵母を給与された豚は、暑熱ストレスへの適応が優れていたことでエネルギー保持率が高まりました。このことも過去の研究で明らかにされた通りです。 総合すると、生きた酵母を与えられた豚は、複数のメカニズムを通じて、1日のうちの熱産生と熱放散のバランスがより良く保たれていました。このようにして生きた酵母は、暑熱ストレスによる生産成績への負の影響を緩和していることが明らかになりました。
[Feedinfo] 次に、インスリン感受性に注目したいと思います。生きた酵母はインスリン感受性にどう貢献し、そして、インスリン感受性の改善は暑熱ストレスの影響の緩和にどう役立つのでしょうか?
[Burno Bertaud] インスリンは、多くの代謝過程において重要なホルモンで、特にエネルギー代謝に関与します。一般的に、食後には血糖値が(他の栄養素の値もですが)上昇し、糖の吸収を促すために膵臓からインスリンが出ます。
熱に晒されるとインスリン感受性が低下し、その結果、基礎インスリン及び血中インスリン濃度が上昇することが報告されています。
インスリンは、脂肪細胞のトリグリセリド(中性脂肪)がグリセロールと遊離脂肪酸に加水分解されるのを防ぎます。暑熱ストレスによる豚肉への脂肪蓄積の変化は、このインスリン応答の変化が関係しているのかもしれません。
多数の研究で、暑熱ストレスにうまく対応するにはインスリン感受性の改善が重要であると、実証されたり、仮説が立てられたりしています。血中インスリン濃度が下がると(血糖値の恒常性維持のため)、体温を下げる或いは低く保つのに役立つと考えられます。

今回の研究では、生きた酵母を与えられた豚は、対照区の豚に比べて、食事前後のインスリン/グルコース比が有意に低く、暑熱ストレス時のエネルギー効率が高くなっていたと考えられます。
- ストレス時の腸の健全性の維持
- 腸内マイクロバイオータのバランス改善による短鎖脂肪酸生産量の増加
という生きた酵母の2つの主要な作用が、このようにインスリン感受性を向上させます。なおヒトにおいてサッカロマイセス セルビシエ ブラディアイの摂取は、腸内マイクロバイオータのバランスを調整して免疫応答を改善することで、(インスリンの活動或いは生産の障害による)高血糖症といった糖尿病関連合併症を軽減することが報告されています。
[Feedinfo]今回の研究では、生きた酵母を給与された豚の飲水量、特に食事前後の飲水量の増加が認められました。これはどういうことでしょう?酵母の添加がなぜ飲水量に影響を与えるのですか?
[Bruno Bertaud] たしかに、生きた酵母を給与された豚では飲水量が、特に食事前後に増えました。豚が体熱を放散させる主要経路は、頻繁な呼吸による水分蒸発です。当然、暑熱下では水分要求量が高くなりますから、飲水量の増加は大変重要な点です。生きた酵母を給与して、飲水量が増えると、呼吸を通じた熱の放散が促されます。これは測定可能で、実際、対照区よりも酵母添加区の豚の方が食後の体温の低下が速く、生きた酵母によって体温調節と熱放散が促されたことがわかります。その理由は、現段階では明確ではありません。今後も調べるべきことはたくさんあります。私たちはこれまで通り、新たな知見を求め続け、知り得た事柄を、動物の健康と福祉と生産性の向上に役立てたいと考えています。

本記事のオリジナルは、2023年5月23日にオンライン専門誌『Feed info news services』に掲載されたものです。発行元の許可を得て日本語に翻訳しています。
英語の原文は下のリンク先から読むことが出来ます。
https://www.feedinfo.com/our-content/lallemand-shares-new-findings-detailing-live-yeast-mode-of-action-in-alleviating-heat-stress-in-pigs-industry-perspectives/337455
参考文献
Serviento AM, Castex M, Renaudeau D, Labussière E. Effect of live yeast supplementation and feeding frequency in male finishing pigs subjected to heat stress. Br J Nutr. 2023 Jun 14;129(11):1855-1870.
doi: 10.1017/S0007114522002513. Epub 2022 Aug 19. PMID: 35983841.
投稿日 Mar 10, 2025 | 最終更新日 Mar 12, 2025