Blog | 読むのにかかる時間 1 分
限られた圃場から得られるコーンサイレージの価値を最大化する
はじめに
こんにちは、フランク クーシェンマイスターと申します。私は粗飼料を専門としている農学博士です。博士号取得後から現在まで10年間にわたり、サイレージに関する仕事をしています。
日本にはこれまで4回訪問しており、そのたびに優しく礼儀正しい日本の人々と日本食に感銘を受けています。和食はドイツ料理とは異なりますが、とても美味しいと思います。日本に居ない時にはいつも、刺身、酒、納豆などの味わいのある料理が恋しくなります。
サイレージ用コーンの基本管理
コーンサイレージは乳牛にとって、飼料価値の高い粗飼料です。消化率の高い繊維とでんぷんを多く含み、1ヘクタールあたりの収量に優れます。高収量と高エネルギー価の両方を確保するには、地域の気候条件に適した正しい品種を選ぶことが最も大切です。
収穫時の目標は、乾物中のでんぷん含量が最低30%以上、作物全体の乾物率が最低32%以上に達するまで成熟していることです。乾物率が32%より低い未熟なコーンの場合、総収量は最適値を下回り、排汁によって栄養素が失われ、サイレージ発酵にも支障がでるかもしれません。pHが過剰に低下したり、サイロ内のいくつかの層で酪酸発酵が起きるリスクがあります。
逆に収穫が遅れて乾物率が38%を上回るようであれば、サイロ詰め込み時の圧縮が難しくなり、貯蔵後にサイロから取り出す際に発熱やカビの問題がみられる可能性があります。
収穫時の天候は、乾燥し最低でも10~15℃と比較的暖かい気温であることが望ましいと言えます。湿度が高い雨天時に収穫した場合、乾物率が低下するとともに、土壌汚染によって灰分とクロストリジウム属細菌の混入が増加します (図 1)。クロストリジウム属細菌の混入は、サイレージの不良発酵の原因の一つです。
図1: 高湿度の雨天時は収穫には不適切な状況であり、サイレージの原料作物中への土壌汚染の増加につながる。
でんぷん含量はコーンサイレージのエネルギー価と成熟度を決定づける指標であり、頻度良く確認する必要があります。一般的にコーン子実のミルクライン (黄色と乳白色部分の境界) が、1/2 ~ 1/3まで降下した時が収穫適期です(図 2)。
図2左: 写真左から右に向かって登熟が進み、ミルクラインが降下している。真ん中2つの子実が収穫適期。
図2右:収穫適期のコーン雌穂
収穫が適期より早い場合、でんぷん含量と乾物率が低くなります。一方で収穫が適期より遅い場合は、乾物率が高く収穫時にコーンの粒を破砕することが難しくなります。
収穫中には子実の破砕状態を必ず確認するようにします。刻みたてのホールクロップコーンを1 kg取ってきれいな床面に広げ、破砕できていない子実の数を数えてみてください。破砕できていない子実とは、少なくとも4分の1以下に割れていないコーン粒のことです。1 kgの刻んだ原料作物のうち、破砕できていない子実は4粒以下であるべきです。破砕できていない子実がそれより多い場合、でんぷんの消化率が理論的な飼料設計値より低くなることを意味します。
未破砕の子実は未消化のまま糞に排出されたり、後腸での発酵によって牛の健康に悪影響をもたらす可能性があります。収穫作業中に複数回、子実の破砕状態を確認してプロセッサーを管理するようにしましょう。砕かれていない雌穂の芯を見つけた場合も、絶対に放置してはいけません (図3)。サイロ開封後に未破砕の子実を見つけたとしても、もはやその段階から破砕することは困難です。
図 3: サイレージ中に裁断されていない雌穂を見つけた場合、そのままの状態で収穫を続けてはいけない。全てのコーン子実は、少なくとも4つの粒に破砕されているべきである。
1ヘクタールあたりの総収量を最大化するには、収穫時の刈り取りの高さを10~20 cmにします。サイレージの消化率とエネルギー価を高める目的で、刈り取り高を45~50 cmにまで上げることはできますが、その場合は当然ながら総収量は減少します。
ホールクロップコーンの切断長は、13~19 mmが望ましい状態です。私の経験則ではありますが、湿った原料作物ほど切断長を長くし、乾燥した原料作物ほど切断長を短くするのがよいでしょう。最適な踏圧の目標は、サイロ1 m3あたりに乾物として240 kgの原料作物を詰め込むことです。
しかし水分含量の高いホールクロップコーン(乾物率 < 32%)で特に切断長が短い場合は、圧縮しすぎに注意します。過剰な圧縮は排汁の流出につながり、つまり栄養素の損失量が増加します。圧縮はサイレージ中の空気の間隙を水で満たすことになります(サイレージはスポンジのようなものです)。このような酸素がない状態においても、酵母などの好ましくない微生物は活動することができます。無酸素条件下において、酵母は糖類を利用してエタノールを産生します。エタノールはサイレージ中の酸と反応して、エステル化します。エタノール、エステル、酵母の組み合わせは飼料摂取量を低下させ、乳中の体細胞数を増加させ、牛の健康に悪影響を与える可能性があります。
コーンサイレージに悪影響を及ぼす微生物を減らす
コーンサイレージ中の酵母や不良発酵の原因となる微生物を減らす方法を、いくつかご紹介します。
<サイレージ調製時>
まず初めに、サイレージ調製時の管理が重要です。原料作物が空気にさらされる時間を少なくするためには、素早く、土の混入が無いように収穫し、最適な切断長と踏圧でサイロに詰め込みます。そして可能な限り早くサイロを密封します。
サイロを密封するには、原料作物を詰め込む前にサイロ壁両面をそれぞれ下から上までシートで覆い、サイロに原料作物を詰め込んだ後にはサイロの上面で折り重ねます。サイロの上面には酸素を通さない機能のあるビニールシートか、薄い真空フィルム(白黒のシート)とブルーシートを合わせて用います。その後は物理的なダメージからサイレージを守るために、全面をネットで覆います。
サイロのシートを抑える重石としてタイヤを使うことはできますが、タイヤの形状では密閉を完全に保つことはできません。もしタイヤを使うのであれば、全てのタイヤが良好な状態であることを確認してください。タイヤの中には金属のネットが入っています。 もしタイヤが破損している場合、金属が作業者を傷つけたり、ビニールシートに穴を開けたりします。金属の破片がサイレージ中に入り牛が食べた場合、牛の損傷にもつながります。
砂利を詰めたサイレージ用バッグの使用は、サイロ密閉用の重石としてタイヤよりも優れています。サイロ上面に凹凸がある状態だったとしても、砂利袋であればより柔軟に密閉することができます。レンガ模様に壁を作るように、二層の四角を作るように並べて使用します(図4)。
図4.サイロ上面は、2層の砂利袋の重石でバンカー内への空気の侵入を阻止する
<サイレージ発酵中>
好ましくない微生物は、サイレージ内のエネルギー価と乾物回収量を低下させると同時に、牛の健康に悪影響を与えます。これらの好ましくない微生物を減らす二つ目の方法は、サイレージ発酵を改善することです。コーンサイレージはなにもしなくてもある程度発酵するため、特段の発酵補助は不要と考えている酪農家の方は多いと思います。良好な発酵の定義をpHの低下のみとするならば、ほとんどのコーンサイレージにおいて確かに基準を達成できているでしょう。
ホールクロップコーンの原料作物に最も多く付着している乳酸菌は、ロイコノストック属です。しかし貯蔵後は、ラクトバチルス属の乳酸菌が増殖しながら乳酸を産生し、pHを低下させます。pHの低下が容易なコーンにおいて、ギ酸やホモ乳酸発酵を行う乳酸菌を添加したとしても、大多数のコーンサイレージの品質に及ぼす影響はわずかしかありません。
しかし残念ながらpHが低下したとしても、サイレージ中の全ての好ましくない微生物の数を減らせるわけではありません。クロストリジウム属細菌や大腸菌、リステリア属細菌などは、低pHによって増殖が抑制されたり死滅します。他方で酵母やカビやいくつかの細菌は低pH下でも生存し、増殖し続けてアルコールなどの良くない物質を産生するものもあります。したがってサイレージ中の微生物構成の目標は、好ましい乳酸菌で大多数を占有し、その他の潜在的に有害な微生物の存在割合を減らすことにあります。
ヘテロ発酵型の乳酸菌の添加による、コーンサイレージの栄養価と乾物回収率の最大化
<貯蔵中>
近年実施された、最先端のメタゲノム解析*の試験結果をご紹介します(Drouin et al., 2019)。
この試験では、ホールクロップコーンにヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌(マグニバ プラチナ1) を添加した区と無添加区を用意しました。貯蔵 64 日間後において、添加区のコーンサイレージでは含まれる全細菌のうち約90 % 以上を占めたのは、ラクトバチルス属細菌でした(動画)。
一方で無添加区では、好ましくない潜在的に有害な細菌の割合が、全細菌のうち25%を超えました。
*メタゲノム解析:含まれるすべての遺伝情報を解析する技術
動画. ホールクロップコーンにヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌を添加した時の貯蔵64日目の微生物構成 (Drouin et al., 2019)
ヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌は、乳酸だけでなく酢酸を産生します。
酢酸には、強い抗真菌性作用があります。サイレージ貯蔵中にたとえpHが低く酸素のない状態になっていたとしても、酵母の増殖を完全に抑制できるわけではありません。しかし酢酸が存在する場合、酵母は急速に死滅します。このように酢酸(酢)は抗真菌性作用を有するため、環境に負荷をかけない食品保存材や天然の洗浄成分として活用されています。
覚えておいていただきたいこととして、コーンサイレージの発酵が適切でない場合、貯蔵中に最大で乾物量の5%が失われる可能性があります。
<サイロ開封後>
コーンサイレージの品質において最も大切な時期は、サイロの開封~給餌までの時間です。サイロ開封後は空気(酸素)がサイロ内に侵入するため、サイレージに非常に大きな影響を与えます。コーンサイレージの品質を高く保つためには、この段階においても基本的な管理を実践することが求められます。
カバーをめくる幅は、3日間の給餌に使う分で十分であり、できれば1日分だけの幅にします。カバーをめくった後のサイロ上面には、風よけとして2層の砂利袋を並べてシートを抑えます(図5)。こうすることで、砂利袋より奥側のサイレージを全て、風から守ることができます。
図5. 取り出し面のシートはサイロ上側で折り返し、砂利袋で風の侵入を抑える。
サイロ内への空気の侵入を抑えるために、サイロの取り出し面は真っすぐきれいに切り出します。取り出し速度は、最低でも週に1.5 mは確保することがおすすめです。
サイロ内に侵入した酸素は、酵母やいくつかの好ましくない細菌を再活性化させます。活性化したこれらの微生物は、エネルギー価の高いでんぷんや糖、さらには乳酸を食べ始めます。乳酸が消費されるとサイレージのpHは上昇し、多くの有害な細菌やカビが増殖できるようになります。サイロ開封後の乾物量の損失は最大で40%に達することがある上、カビの増殖は常にカビ毒が産生されるリスクを伴います。
貯蔵後のコーンサイレージを10日間に渡って空気にさらした後、その微生物構成を調べた最新の研究をご紹介します(Drouin et al., 2021)。
この試験ではサイレージ調製時に先と同じヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌を添加した区と、無添加区を用意しました。その結果、無添加区のコーンサイレージでは、好ましくないアセトバクター属細菌の増殖が確認されました。一方で乳酸菌を添加した区では、空気に10日間さらした後でもラクトバチルス属の乳酸菌の占有率が比較的高いまま維持されていました(図6)。
図6. 159日間貯蔵したコーンサイレージを開封した後、空気に10日間さらした時の細菌構成の変化
さらに乳酸菌添加区では無添加区よりも、開封後に産生されるカビ毒含量が少なかったことも示されています(図7)。
図7. サイロ開封後のコーンサイレージ中のカビ毒(ロケホルチンC)含量の変化
乳酸菌の添加によってこのような変化が見られた理由は、酢酸が産生されたためと考えられます。未だに酢酸は、飼料摂取量を減らす原因物質とみなされることがあります。アセトバクター属細菌による不良発酵によって酢酸が産生された場合、酢酸臭がするサイレージの嗜好性が悪いというのは真実かもしれません。しかしヘテロ乳酸発酵によって産生された酢酸の場合、嗜好性への悪影響は確認されておらず、影響があったとしてもかなり少ないと考えられます。
実際には、TMR(最終飼料)中の酢酸含量が1.73%を超えると、飼料摂取量が減少する可能性があるという報告があります(Gerlach et al., 2021)。 これはTMR中のサイレージの構成割合が50%であった場合、配合するサイレージの酢酸含量が3.47%を超えない限り負の影響がないことを意味します。少なくともラレマンド社が取り扱っているヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌では、この酢酸含量に達することはまずありません。
仮に酢酸に飼料摂取量を減らす働きがあったとしても、酢酸は好ましくない微生物の増殖やサイロ開封後の二次発酵(発熱)を抑える働きがあります。サイレージの発熱による悪影響の方が、より甚大であると考えられます。
コーンサイレージがサイロ開封後に発熱してしまった場合、給与できずに廃棄せざるを得ないこともあり、農場の経営状態を悪化させる可能性があります。たとえ貯蔵中の発酵が良好で、サイロ開封後も発熱しない良好なサイレージであったとしても、サイレージ化に伴い収穫量の12%の乾物量は失われています(Borreani et al., 2018)。これは、圃場での取りこぼしや発酵中の呼吸、排汁、カビによるものです。
一方で管理が不適切である場合、乾物量の損失は最大で50%にも達する可能性があります。乾物で1トンのコーンサイレージを作るのにかかる生産費が7万円であった場合、50%の損失は3万5千円です。有害な微生物は飼料摂取量を減少させ、乳量や受胎率などの成績を低下させることもあります。コーンサイレージ中のカビの生菌数が増えるにつれ、それを摂取した牛の乳量は減少することが分かっています。
サイロ開封後に14日間空気にさらしたコーンサイレージを乳牛に給与した時、サイレージ調製時に無添加の場合とヘテロ発酵型の乳酸菌添加をしていた場合では、収穫時の乾物トンあたりの日乳量に400リットルもの差が出ることが予測されています(Tabacco et al., 2011)。
おわりに
限られた面積の圃場から求める品質と収量のコーンサイレージを得るには、優れた管理を行った上で科学的な裏付けのあるヘテロ発酵型の乳酸菌を添加することを強くお奨めします。完璧な管理だけ、あるいは適切な乳酸菌の添加だけでは、最高の結果を得ることはできません。両方を実践することが大切です。
日本に合った言葉を用いてご説明したいと思います。風味の良い刺身はとても素晴らしく、旨い酒もまた素晴らしいものです。しかし両方を合わせることによって、ずっと奥深い味わい深い食事となるのです。
Thank you very much, Arigato!
ラレマンドアニマルニュートリション
フランク クーシェンマイスター/Frank Küchenmeister
<参考文献>
- Drouin, P. et al., 2019. Dynamic Succession of Microbiota during Ensiling of Whole Plant Corn Following Inoculation with Lactobacillus buchneri and Lactobacillus hilgardii Alone or in Combination. Microorganisms, 7, 595.
- Drouin, P. et al., 2021. Microbiota succession during aerobic stability of maize silage inoculated with Lentilactobacillus buchneri NCIMB 40788 and Lentilactobacillus hilgardii CNCM-I-4785. Microbiologyopen, 10, e1153.
- Gerlach, K. et al., 2021. A data analysis on the effect of acetic acid on dry matter intake in dairy cattle. Animal Feed Science and Technology, 272, 114782.
- Borreani, G. et al., 2018. Silage review: Factors affecting dry matter and quality losses in silages. Journal of Dairy Science, 101 (5), 3952–3979.
- Tabacco E. et al., 2011. Dry matter and nutritional losses during aerobic deterioration of maize and sorghum silages as influenced by different lactic acid bacteria inocula. Journal of Dairy Science, 94:1409e19.
投稿日 Jul 23, 2024 | 最終更新日 Oct 10, 2024