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豚のマイクロバイオータ(細菌群集)の調節を目的とした メタゲノミクスの応用

豚のマイクロバイオータ(細菌群集)の調節を目的とした メタゲノミクスの応用

2020年11月24日、ラレマンドアニマルニュートリションは、養豚に関するウェブセミナーを開催致しました。世界各地から400名のご参加を頂き、深く感謝申し上げます。講演の内容について、簡単にご紹介いたします。

要約

腸内に生息する特定の微生物は、宿主動物の消化と吸収、同化、そして病原菌の増殖抑制に重要な役割を担っていると考えられています。宿主と腸内微生物は共生関係にあるため、腸内微生物を深く理解することによって、養豚生産管理を向上させる新しい研究成果を見出すことが期待されます。現在の養豚業界は、持続可能性や人間と動物の福祉などに問題を抱えています。

腸管内の微生物生態系の研究は、分子生物学的手法であるオミクス技術が急速に発展したことによって、この15年に革命的な進化を遂げました。このビッグデータは動物栄養学において、腸内微生物に関する新たな知見を得るために活用されています。

腸内微生物研究へのオミクス技術の活用例:

  • 新生動物の腸管への微生物の定着とその機能、母親から子へ腸管微生物が受け継がれるという概念
  • 腸管内微生物と飼料、栄養素、疾病、成長段階や代謝状態との関係
  • 特定の疾病や障害を予測するためのバイオマーカー研究
  • 抗生物質に代わる解決策の探索
  • 飼料効率の向上などを目的とした、個体毎の給餌や精密な給餌

DNA配列の解読から微生物生態系の特性解析に渡り、オミクス技術では16S rRNA 遺伝子などの異なるマーカーを選んで用います。その後、微生物集団の多様性を求めるために様々な解析を行います。今回のウェビナーでアパー氏はメタゲノミクス解析に着目し、養豚生産管理の向上のためにこの技術が活用された事例を紹介しました。分娩や離乳に伴って母豚や子豚の消化や消化管内マイクロバイオータ(細菌群集)の構成が変化したとき、オミクス技術によってその変化の特徴をとらえることができます。

講演の後半ではソニレ氏が、分娩4週前から離乳まで母豚にSaccharomyces cerevisiae var. boulardii CNCM I-1079を給与した時の、腸内マイクロバイオータの変化について紹介しました。この試験では、母豚および子豚の糞便から抽出した細菌DNAを用いて、メタゲノミクス解析を行いました。最初に確認されたことは、分娩が近づくと細菌構成に乱れが生じるということです。母豚のマイクロバイオータのα多様性が低下し、具体的には特定の繊維分解性細菌の相対存在量の低下とプロテオバクテリア門細菌の相対存在量の増加がみられました。プロテオバクテリア門は、大腸菌、サルモネラ、赤痢菌、カンピロバクターなどの典型的な病原菌の一部を含む大きなグループです。プロバイオティクス酵母の給与はこれらの影響を軽減し、結果として母豚の糞便マイクロバイオータ中の繊維分解性細菌の相対存在量の低下やプロテオバクテリア門細菌の増加は限定的なものとなりました。興味深いことに、母豚への酵母給与の影響は、生まれた子豚の細菌構成にも引き継がれ、この影響は離乳後20日まで確認できました。母豚由来のマイクロバイオータが子豚のマイクロバイオータの構成に与える影響は、子豚の早期段階の微生物の定着、さらに離乳期にまで継続するようにみられ、母方由来の刷り込み(maternal imprinting)の概念が示唆されました。

ラレマンドアニマルニュートリションでは、引き続き養豚飼養に役立つ情報とサービスを提供して参ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿日 Dec 1, 2020 | 最終更新日 Jul 24, 2024

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