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脊椎動物のモデル生物ゼブラフィッシュ

脊椎動物のモデル生物ゼブラフィッシュ

はじめに

現代の科学研究においては、倫理的な動物の使用が求められています。1960年代より、動物実験に関する世界中の法規制の土台として、3R[代替法の活用(Replacement)、使用数の削減(Reduction)及び苦痛の軽減(Refinement)]の原則が使用されるようになってきています1
 しかしながら、研究者が生物生理や疾患の進行を理解し、新しい治療法の開発を進めるためには、動物モデルの利用は今でも欠かせません2。そのため哺乳類の代わりに、知覚があまり発達していないと考えられる代替生物の使用が検討されるようになりました。
 この選択肢の一つとして、学術研究界ではゼブラフィッシュ(Danio rerio)の利用がこの数十年で飛躍的に増えています3。ゼブラフィッシュは、インド原産の青色と銀色の縞模様を持つ小型の熱帯淡水魚です。

ゼブラフィッシュが脊椎動物のモデル生物として優れている理由

ゼブラフィッシュが脊椎動物のモデル生物として広く研究に利用されるようになった背景には、複数の理由があります(トップ画像 文献12を改変)。

  • ゼブラフィッシュの胚は透明であるため、臓器の発達を直接観察し、細胞プロセスをリアルタイムで画像化することができます(図1)4
図1. 受精後72時間のゼブラフィッシュの発達の様子8
  • また、体外で受精するため、生命が発生したその日から発達を観察することが可能です3,5
    小型で(成魚で4〜5 cm)、成長が早く(1世代が約3ヶ月、受精の24時間後には心臓の拍動が確認可能)(図2)、産卵数が多いため(雌1尾あたり50〜200個)、大規模な実験と統計解析が可能です3,6
  • 2013年にゼブラフィッシュの全ゲノム配列の解析が完了し、哺乳類と高い相同性を示すことが明らかになりました。ヒトの遺伝子のうち約70%には、ゼブラフィッシュにも相当する遺伝子(オルソログ)が存在することがわかり、遺伝子の機能についての研究が進んでいます7
  • 再生能を持ち、脊椎動物で高度に保存されている組織の修復及び再生のプロセスの研究に大きく役立てられています8
  • ゼブラフィッシュの免疫系は、異なる点もありますが、他の脊椎動物と類似しています9。興味深いことに、ゼブラフィッシュの皮膚は人の皮膚と複数の類似点があり、皮膚腫瘍や炎症性皮膚疾患の研究にも適しています10。最後に、宿主のマイクロバイオータ(微生物群集)やマイクロバイオータ-臓器軸の魅力的な研究ツールになることも示されています11

さらに、ゼブラフィッシュの飼育は費用効率に優れています4

ゼブラフィッシュの使用は、哺乳類と比べると倫理的な問題が少なく、さらに現在では、ゼブラフィッシュの反応を調べるためのさまざまな市販の表現型診断キットやツールが利用できるようになりました。また、特殊な遺伝子突然変異を導入して改良したゼブラフィッシュ(ノックアウト又はトランスジェニック)の系統が数多く作製されており、ある遺伝子の機能の特定や人の疾患(例:がん、心血管病、代謝病等)のモデルに用いられています。

これらの興味深い特徴のおかげで、ゼブラフィッシュはさまざまな領域の研究に重要な貢献を果たしてきました5。歴史的には、透明な体を持ち、迅速な発達を遂げるため、発生生物学の分野において臓器形成、組織発生及び細胞分化に関する詳細な研究に利用されていました8,13。遺伝学及びゲノミクスの分野では、病原遺伝子の特定と遺伝子機能の研究に使用されています9,14

また、腸内マイクロバイオータの構成や宿主と腸内微生物及び宿主と腸内病原体の相互関係の研究にも使われています2,15。組織の再生、心血管系の発達、がん生物学及び毒性学の分野での理解にも貢献しました3,6,16。加えて、創薬の分野では、新薬候補を見つけるスクリーニングにも利用されています2。また、食物由来の機能性サプリメントの安全性や有効性の評価での活用も一般的になってきています。

おわりに

ゼブラフィッシュは生物医学及び栄養医学分野の研究における生物学的モデルとして、この十年間でその重要性が高まっています。そのユニークな利点や応用方法は研究分野を越えて役立てられています。透明な体、迅速な発生、遺伝子操作の簡便性、再生能、費用効率に加えて倫理原則を尊重できるという利点により、数多くの科学的発展を後押ししてきました。
進化的に哺乳類と遠く行動的な複雑性に欠くといった限界もありますが、ほとんどの場合はこれらの要素と比べて利点の方が大きく上回っています。

ラレマンドアニマルニュートリションでは、
新製品候補のスクリーニングなどにおいてゼブラフィッシュを利用しています。

参考文献

  1. Vitale, A.; Ricceri, L. The Principle of the 3Rs between Aspiration and Reality. Front. Physiol. 2022, 13.
  2. Hanyang, L.; Xuanzhe, L.; Xuyang, C.; Yujia, Q.; Jiarong, F.; Jun, S.; Zhihua, R. Application of Zebrafish Models in Inflammatory Bowel Disease. Front. Immunol. 2017, 8.
  3. Bailone, R.L.; Fukushima, H.C.S.; Ventura Fernandes, B.H.; De Aguiar, L.K.; Corrêa, T.; Janke, H.; Grejo Setti, P.; Roça, R.D.O.;Borra, R.C. Zebrafish as an Alternative Animal Model in Human and Animal Vaccination Research. Lab. Anim. Res. 2020,36, 13, doi:10.1186/s42826-020-00042-4.
  4. Seth, A.; Stemple, D.L.; Barroso, I. The Emerging Use of Zebrafish to Model Metabolic Disease. Dis. Model. Mech. 2013, 6,1080–1088, doi:10.1242/dmm.011346.
  5. Teame, T.; Zhang, Z.; Ran, C.; Zhang, H.; Yang, Y.; Ding, Q.; Xie, M.; Gao, C.; Ye, Y.; Duan, M.; et al. The Use of Zebrafish (Danio Rerio) as Biomedical Models. Anim. Front. 2019, 9, 68–77, doi:10.1093/af/vfz020.
  6. Brugman, S. The Zebrafish as a Model to Study Intestinal Inflammation. Dev. Comp. Immunol. 2016, 64, 82–92,doi:10.1016/j.dci.2016.02.020.
  7. Howe, K.; Clark, M.D.; Torroja, C.F.; Torrance, J.; Berthelot, C.; Muffato, M.; Collins, J.E.; Humphray, S.; McLaren, K.; Matthews,L.; et al. The Zebrafish Reference Genome Sequence and Its Relationship to the Human Genome. Nature 2013, 496,498–503, doi:10.1038/nature12111.
  8. Herbomel, P. Le Danio: Le Poisson Qui a Séduit Les Chercheurs. Lett. Académie Sci. 2020, 40, 22–25.
  9. Trede, N.S.; Langenau, D.M.; Traver, D.; Look, A.T.; Zon, L.I. The Use of Zebrafish to Understand Immunity. Immunity 2004,20, 367–379, doi:10.1016/S1074-7613(04)00084-6.
  10. Russo, I.; Sartor, E.; Fagotto, L.; Colombo, A.; Tiso, N.; Alaibac, M. The Zebrafish Model in Dermatology: An Update for Clinicians. Discov. Oncol. 2022, 13, 48, doi:10.1007/s12672-022-00511-3.
  11. Xia, H.; Chen, H.; Cheng, X.; Yin, M.; Yao, X.; Ma, J.; Huang, M.; Chen, G.; Liu, H. Zebrafish: An Efficient Vertebrate Model for Understanding Role of Gut Microbiota. Mol. Med. 2022, 28, 161, doi:10.1186/s10020-022-00579-1.
  12. Beffagna, G. Zebrafish as a Smart Model to Understand Regeneration After Heart Injury: How Fish Could Help Humans.Front. Cardiovasc. Med. 2019, 6.
  13. Ekker, M.; Akimenkko, M. Le poisson zèbre (danio rerio), un modèle en biologie du développement. édecine/sciences1991, 7, 553, doi:10.4267/10608/4405.
  14. L’image de la semaine : «Le poisson-zèbre, organisme modèle» Available online: https://lejournal.cnrs.fr/nos-blogs/aux-frontieres-du-cerveau/limage-de-la-semaine-le-poisson-zebre-organisme-modele (accessed on 25 May 2023).
  15. Flores, E.M.; Nguyen, A.T.; Odem, M.A.; Eisenhoffer, G.T.; Krachler, A.M. The Zebrafish as a Model for Gastrointestinal Tract–Microbe Interactions. Cell. Microbiol. 2020, 22, e13152, doi:10.1111/cmi.13152.
  16. Bauer, B.; Mally, A.; Liedtke, D. Zebrafish Embryos and Larvae as Alternative Animal Models for Toxicity Testing. Int. J.Mol. Sci. 2021, 22, doi:10.3390/ijms222413417.

投稿日 Nov 18, 2024

水産養殖