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ラレマンドアニマルニュートリションの革命の道のり

ラレマンドアニマルニュートリションの革命の道のり

本記事のオリジナルは、2021年4月にフランスの飼料雑誌『La Revue de l’Alimentation Animale’ Fitamant』に掲載されたものです。発行元の許可を得て日本語に翻訳しましたので、ご紹介いたします。

この記事では、ラレマンドアニマルニュートリションのヤンニグ ル トロット(最高経営責任者)とマシュー カステックス(研究開発長)が、新型コロナウイルスによる企業活動への影響を振り返っています。そして両名は、ラレマンド社の戦略が、いかに研究開発に重きを置いているかについて語りました。ラレマンド社の長期戦略は、既存製品の作用機序の解明を深めると共に、微生物製品による新しい解決策や新しい使用方法を開発することです。こうして会社を新たな地平へと導いて、成果を実らせていくことを目的としています。

 

新型コロナウイルスが、ラレマンドアニマルニュートリションの活動に与えた影響は?

ラレマンドアニマルニュートリション
最高経営責任者
ヤンニグ ル トロット

ヤンニグ ル トロット: 畜産業界全体で同じ状況であると思いますが、現時点で当社はコロナ禍の影響を比較的免れています。初めの頃は一種のパニックによって、業界関係者が飼料の予備在庫の確保に動くことが予測されました。そのため、注文数増加への備えが必要でした。状況に合わせて業務を最適化するために、製造と物流に関わる各チームが調整に尽力してくれました。

当初は、「一時的に注文数が増えても、その後は減少に転じるだろう。」と考えていたのですが、実際には異なり、2020年は年間を通じて販売数量が全世界で飛躍しました。世界で唯一低迷を余儀なくされたのは、インドでした。非常に厳しい長期間にわたるロックダウンにより、大勢の職を失った人々が出身地へ戻り、これが物流チェーンを完全に寸断し、インド経済を崩壊させました。

 

世界的危機の中にあって、良い業績が得られた理由は?

ヤンニグ ル トロット: 良い業績の理由は、決して運だけではありません。会社の長期戦略、特にお客様との信頼関係の構築と研究を重視した長期戦略が、必然的にもたらした結果だと思っています。ラレマンド社は、細菌と酵母製品に関するパイオニアであり、微生物製品による解決策と、腸内マイクロバイオータ(微生物相)を研究し続けてきた歴史があります。ラレマンドアニマルニュートリションは、欧州連合(EU)が動物用の成長促進を目的とした抗生物質の禁止を打ち出す前から、抗生剤の代替策を探求していました。私たちの現在の研究開発費は、2004年時点の総売上高と同額です。研究開発への多大な投資が、確かな解決策を生み出しているのです。

微生物を原料とした機能性飼料の概念は、2000年代初頭において非常に革新的なものでした。それが20年弱の間に世界中で広く受け入れられ、共有されるようになりました。革新には3つのステージがあるとされています。最初は馬鹿にされ、次に理解され、最終的には欠かせない物となります。その後は規格化が進み、否定していた競合他社までもが参入してきます。この段階まで来ると競争が増えますが、それは健全で公正なことです。私たちが初めて飼料用のプロバイオティクスを発売した時には、20年後に北米の鶏やフランスの母豚の飼料の半分にプロバイオティクスが使われるようになるとは夢にも思いませんでした。

 

ラレマンド社の主な研究戦略は?

ラレマンドアニマルニュートリション
研究開発長
マシュー カステックス

マシュー カステックス: ラレマンド社の研究戦略は、第一に、目的に合った有用微生物を選抜することです。そして第二には、開発した製品の動物体内での有効性を実証すること、とりわけ法規制を満たすことに重点を置いてきました。EUの規制に沿って飼料添加物としての認可を得るには、安全性データと有効性データを揃える必要があります。

 

ラレマンド社でマイクロバイオータの研究が飛躍した背景は?

マシュー カステックス: 科学の進歩、特にマイクロバイオータの特性解明を助ける分子生物学の進歩は、私たちの研究構想の発展に大いに寄与しています。この新しい技術を用いることで、製品の作用機序についての理解を深め、特に製品の使用方法の最適化を促すことが出来ました。今や環境中に含まれる遺伝子を網羅的に解析することによって1)、機能性飼料の給与が腸内マイクロバイオータに及ぼす影響を、より詳細に推定できるようになりました。ゲノムの特定領域を増幅して配列解析2)を行い、マイクロバイオータの構成を把握する場合、10年前は1検体あたり数万円の費用がかかりました。しかし今日では、6500円未満で実施することができます。

1) 環境中に含まれる遺伝子を網羅的に解析:メタゲノミクス
2) ゲノムの特定領域を増幅して配列解析:アンプリコンシーケンシング

 

科学技術の力で、腸管内に生息する微生物を無限に探求できる?

マシュー カステックス: 現代における研究の制限要因は、今や経済性ではなく技術的な問題であることは明らかです。コンピュータの計算能力、特にデータ処理能力が限界を決めています。常在菌の複雑な動態を把握するには多面的な評価が必要ですが、現段階では全ての側面を考慮できる統計ソフトウェアは存在しません。分子生物学的技術の発展によって、多量の遺伝情報が入手できるようになりましたが、そこから有用情報を抽出するには、生命情報科学や生物統計学の分野の発展が必要です。現時点での私たちの大きな目標は、多量の生物学的情報を解析できる技術3)を活用して、マイクロバイオータの機能と、それが家畜の生理機能に与える影響をよりよく理解することです。新しい分子生物学技術と、従来からある培養に基づく微生物分析手法を、より処理量を高めて組み合わせることで、新たな有望微生物の同定と分離の可能性が広がります。

3)多量の生物学的情報を解析できる技術:オミクス技術

 

ヤンニグ ル トロット: 私たちは、製造工程の最適化や品質管理ツール、新しい製造方法の開発にも、多額の投資を続けています。特に新しい製造方法の開発は、特定環境中の微生物とその遺伝子群4)の研究の発展によって生まれるであろう、新しい製品や概念に付随する課題に対処し、未来に備えていくために重要です。

4)特定環境中の微生物とその遺伝子群:マイクロバイオーム

 

今後も消化管内のマイクロバイオータは研究対象?

マシュー カステックス: ラレマンドアニマルニュートリションの研究開発チームのうち8名は、世界各地の最先端研究所(Centers of Excellence)に所属しています。これらの研究員は、産業動物の腸管は勿論、ペットの腸管、水産養殖池、敷料や畜舎等の畜産環境、サイレージ中のマイクロバイオータの研究に専念しています。こうした様々なマイクロバイオータから得られる多量の情報は、未来のコンセプトの開拓や製品の礎となります。例えば私たちは、母豚と離乳後までの子豚について、腸内マイクロバイオータの解析プログラムを開発しています。同一農場内であれば、特定の微生物の存在量を測定することで、離乳後の生産成績をかなり正確に予測できます(残念ながら、異なる農場間での比較予想はまだできない段階です)。マイクロバイオータの情報を用いてより広範な予測をするには、更なる研究が必要です。実用に落とし込むには、おそらく農場現場における、微生物の遺伝子配列の解読を実現する必要があります。私たちはこれを必ず実用化するために、研究提携先と共にいくつかの研究プログラムを進めています。

 

他には、どのような研究分野に目を向けている?

マシュー カステックス: マイクロバイオータが免疫に及ぼす影響についても、注力して研究しています。新型コロナウイルスの流行に関連してワクチンのニュースが盛んになる中、この分野への反響は大きくなっています。畜産において、ワクチンは健康に欠かすことのできない道具です。そして同時に、経済面からも重要です。外界と体内をつなぐやり取りの多くは腸で行われるため、腸は免疫において重要な役割を担っています。体が有効な免疫応答を起こさなければ、ワクチンの効果を得ることはできません。しかし農場で行われる大規模ワクチン接種では、ストレスが生じ、ワクチンに対する反応の質が悪くなります。ワクチンの効果を制限する要因が、間違いなく存在しています。今日ヒトの分野で証明されているように、腸の健康への理解がこの問題を助けるかもしれません。

 

マイクロバイオータの研究は、腸内に限って行われている?

ヤンニグ ル トロット: これまで行ってきた免疫に関する研究から、動物の健康には包括的なアプローチが必要であることを確信しています。動物は、自身の皮膚から畜舎壁面に渡り、微生物バイオフィルムの中で暮らしています。消毒剤の使用頻度や濃度が過剰であったり、使用量が足りない、あるいは消毒剤使用に先立つ洗浄が不十分というように作業手順が悪かったりすると、特定の消毒剤分子に対する薬剤耐性菌が生まれる可能性があります。もし抗生物質耐性菌が、消毒剤にも耐性を持ってしまった場合、抗生物質耐性菌の増加を促してしまう可能性があります。動物が好ましい腸内マイクロバイオータを獲得し維持するには、動物体内だけではなく、接触面・周辺環境のいずれにおいても、バランスの良い、安定したマイクロバイオータを整える必要性があります。

こうした観点から考えると、飼料のサルモネラ属細菌対策としての熱処理は、全肯定することはできません。なぜなら、飼料を通じたバランスの良い、安定したマイクロバイオータの確立を制限してしまうからです。Guy Martineau教授が提唱する「やり過ぎ」病の発生には、こうした管理が関与しているかもしれません。飼料中の生菌数が、gあたり1000個未満の腸内細菌科菌群をターゲットに熱処理を行うと、例えばラクトバチルス属等の、より熱に敏感な常在細菌がほぼ死滅してしまいます。無菌環境下の孵化場で孵化した雛を、洗浄・消毒された鶏舎に移し、熱処理された飼料と殺菌された水を鶏に給与した場合、腸内マイクロバイオータはどのように確立されるでしょうか。鶏の健康に欠かせない、バランスの良い、豊かなマイクロバイオータを形成する機会が、間違いなく制限されています。このような背景から、動物の飼養環境の面からも、マイクロバイオータを研究していく必要があると考えています。

マシュー カステックス: 当社の研究所では、各農場に固有な環境中のマイクロバイオータを、DNAフィンガープリンティングという方法で経時的にモニタリングすることができます。また、こうした環境中のバイオフィルムのサンプルについて、特徴を研究しています。

 

免疫に関する、新しい知見は?

 

ヤンニグ ル トロット: 私達は、群サイズとその臨界量に関しても研究をしています。一群あたりの動物の数は、慢性炎症の発生率と継続性に影響します。たとえ病気になっていなくても、高負荷な繁殖条件や相対的に弱い遺伝特性、高い生産性等が慢性的な炎症状態を生み、エネルギーや栄養を「浪費」します。その結果、動物はあらゆる病気や異常の影響を受けやすくなってしまいます。

 

まだ探り始めたばかりの、新たな研究分野は?

マシュー カステックス: もちろん、探索中の研究テーマは多数あります。例えば、マターナルインプリンティング(母から子へのマイクロバイオータの移行)という概念と、それが家畜の栄養と福祉にどう関与し、どう直接的に応用できるかということを探っています。別の例として、例えば脳腸軸・腸肝軸・腸皮膚(粘膜)軸といった、腸の健康や炎症と、その他の臓器とのつながりにも着目しています。さらに別の例として、競争排除の概念の深化と拡大に取り組んでいます。競合排除は、「若齢期の動物に好ましいマイクロバイオータを移植し、好ましくないマイクロバイオータを定着させない」、という概念です。競合排除は、養鶏場ですでに活用されています。

また畜産環境および、当社の微生物製品が畜産環境に与える影響に関する研究は、当社において一層重要な分野になってきています。

 

 

すでに販売されている製品に関する、新たな知見は?

ヤンニグ ル トロット: 既存製品の実証研究も続いています。例えば、酵母細胞壁や酵母派生物の、作用機序の解明に取り組んでいます。スクリーニング段階や給与試験前において、動物を使わずに済むような試験管内(in vitro)及び生体外(ex vivo)モデルの開発にも力を注いでいます。既存製品の作用機序の理解を深めることは、開発全体の流れを速めることにもつながります。基礎科学を理解することは、販売促進だけでなく、当社のビジネス全体の糧となるため、当社の心臓部を担います。しかし投資額全体に対する比率で言うと、既存製品の実証試験への投資は、新しい方法論やツール、新しい製造工程、新製品の開発への投資よりは少なくなっています。

 

抗生物質の使用を減らす以外で、どのような問題に貢献している?

ヤンニグ ル トロット: 抗生物質の使用削減については、現時点でまだ規制されていない国々においても、世界中で強い圧力があります。抗生物質の使用削減の原動力は、市場と消費者です。消費者の健康と食の安全への関心の拡大が、市場を支配しています。私たちは、こうした動向にも留意しています。

例えば当社の製品である、ブロイラー用の生きた酵母「レブセルSBは、純粋な生産成績の向上だけを目的としていません。この製品は、腸内マイクロバイオータのバランスを整えることで、ブロイラー屠体のサルモネラ属細菌汚染を減らすことができる酵母として、世界で初めてEUの認可を受けました。

マシュー カステックス: 今や飼料添加物に関する規制を更新し、生産成績の向上だけでなく動物福祉(アニマルウェルフェア)に対する有益性も考慮していく必要があります。動物福祉に対する影響は、消化の快適さに関わる生理学的、行動的指標を観察することで、評価することができます。臨床症状がないからといって、動物が元気であるとは言い切れません。健康であることの前提条件として、消化が快適でなくてはいけません。ヨーロッパの規制は、目下この方向に進化し始めていて、飼料添加物に「生理状態安定材*」という新しい機能グループが追加されました。私たちは、この新しい機能グループに基づいた新たな取り組みを始めています。

*生理状態安定材(physiological condition stabilisers):「健康な動物に給与すると、ストレス因子への抵抗力を含め、その生理的状態に好ましい影響を与えるような物質、又は、場合によっては微生物のこと」(欧州委員会規則(EU) 2019/962)

 

今後も新たな製品は登場する?

ヤンニグ ル トロット: 今後の予定は、かなり詰まっています。まず今後数か月のうちに、EUにおいて当社のプロバイオティクスの使用が、新しい動物種で認可される予定です。その他にも、バチルス属細菌をベースとした家禽用の新しいプロバイオティクスと、若齢反芻動物用のプロバイオティクス製品を一部地域で上市します。この製品がヨーロッパで発売されるのはまだ数年先ですが、世界の一部の地域で先行して販売されます。さらには、水産養殖用の複数の新製品が開発段階にあり、また各動物種用に新しい機能性原料も近々紹介できる予定です。そして、畜産環境中のマイクロバイオータバランスを改善する製品も、いくつか開発しています。畜産環境製品は、農場のバイオセキュリティを補完する理想的な解決策になると期待しています。

マシュー カステックス: マイクロバイオーム研究の進歩は、非常にエキサイティングです。科学の進歩によって、私たちは知識を深め、現象を理解し、より理解可能なメッセージを伝えることが出来ます。当社は、研究と現場での実践を基礎とし、様々なアイデアの推進者となりたいと考えています。ヨーロッパでは、新製品の認可に相変わらず時間がかかります。プロバイオティクス用の新規菌株を市場に出すまでには、5~10年が必要です。

たちは最近、サイレージ調製用の新しい乳酸菌レンチラクトバチルス ヒルガルディLentilactobacillus hilgardiiを、ヨーロッパで発売しました。この菌の選抜から上市に至るまでには、研究に10年が費やされました。

従来の枠にはまらない「型破りな」微生物製品を販売するには、法規制を変える必要もあり大変ですが、今後も革新的な新しい解決策を開発していきたいと考えています。

 

多事業を行うグローバル企業の一員であることは、どのようなメリットがある?

左側:酵母       右側:細菌

ヤンニグ ル トロット: ラレマンド社は、酵母と細菌の両方を製造することが出来る、数少ないグローバル企業です。バイオエタノールから園芸に渡り、健康、栄養、食品、ワイン、ビール、パン等の多岐にわたる事業を行っています。そして全ての事業部で、微生物菌株の選抜、作用機序の解明、生産工程の確立までを、自社内で完結させる手段を持っています。スコットランドには、海洋由来の微生物菌株の収集と同定を行う、菌株コレクション施設を保有しています。この施設のおかげで、研究対象となる細菌は10,000菌株以上増え、研究の幅を広げることができました。革新を進める動力源を社内に持っていることは大きな財産であり、安定にもつながります。そして私たちは、国際的な学術パートナーとも幅広いネットワークを持ち、足りない部分を補っています。

ラレマンド社は、十分な規模と多様な事業を持つことによって、全ての関係者を豊かにすることが出来ています。これらの資産を活用し、今後も革新への投資と応用法の実証への投資をしていく予定です。

 

© La Revue de l’Alimentation Animale, 2021  記者 Françoise Foucher

投稿日 Jun 18, 2021 | 最終更新日 Jun 1, 2023

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