Blog | 読むのにかかる時間 1 分

放牧開始時への生きた酵母の給与:ルーメンの中で何が起こっている?

放牧開始時への生きた酵母の給与:ルーメンの中で何が起こっている?

ルーメンマイクロバイオータ(微生物相)の専門家である
ラレマンドアニマルニュートリション研究マネージャー
フレデリック チャウチェイラス-デュランド博士へのインタビュー

冬季飼料から放牧飼料への移行は、ルーメンマイクロバイオータにどのように影響を与えますか?

飼料を変更すると、どのような場合であってもルーメンマイクロバイオータの構成と活性に影響が及びます。 反芻動物はルーメンマイクロバイオータの働きに、大部分の飼料成分の消化、特に繊維消化を頼っています。放牧開始には、飼料の移行が伴います。多くの場合に冬季飼料は、でんぷんを含む配合飼料と、コーンサイレージまたはグラスサイレージで構成されています。一方で生育が旺盛な牧草は、易発酵性糖類と消化しやすいセルロース性の成分を多く含んでいます。このような飼料の移行時には、亜急性ルーメンアシドーシス(SARA)のリスクが高まります。生育が旺盛な放牧草には、可溶性窒素も多く含まれています。

こうした背景から、放牧開始の最初の数週間はルーメンの健康を維持するのが難しい時期であり、ルーメンマイクロバイオ―タのバランスが非常に不安定になります。農場現場では、SARAの目に見える兆候である緩い糞便が観察されるかもしれません。放牧開始時のルーメン微生物の変化を調べた研究は、わずかしかありません。そこで研究者らは最新のDNA配列解析技術を用いて、放牧移行期のルーメンマイクロバイオータに起きている事象に関して知見を深めています。

現時点では、例えば次のような事象が明らかになっています。:

  • 若い放牧草は可溶性糖類を多く含むため、 ストレプトコッカス属細菌などの乳酸産生細菌を増加させます(Belanche et al., 2019)。本菌は、ルーメンアシドーシスや鼓脹症のリスクを上げることが知られています。
  • セルロースやヘミセルロースを分解する細菌(例えばブチリビブリオ フィブリソルベンスが含まれる ラクノスピラ科やルミノコッカス科)が、微生物構成の中で大きな割合を占めるようになります。嫌気性のルーメン真菌である オルピノマイセス属の存在割合も大きくなります (Guo et al., 2020)。
  • 可溶性窒素を多く含む放牧草に反応して、プレボテラ属細菌 や繊毛性のプロトゾアなどのたんぱく質分解性の微生物増加することが分かっています(Belanche et al., 2019)。これらの菌は、ルーメン内に過剰なアンモニアを産生する可能性があります。
  • メタンを産生する古細菌であるメタノブレビバクター ルミナンティウムの存在量が、より多くなります(Guo et al., 2020)。これはセルロースがより分解されると、メタンがより多く産生される可能性を示しています。そのため放牧期間中の地球温暖化への影響を最小限にするには、飼料効率を高めることが重要です。

その他にも反芻動物が放牧に移行する際には、細菌の多様性が増加することが確認されています。この結果は、放牧に適したルーメン機能の維持には、より複雑な微生物共同体が必要となる可能性を示しています。この知見からも、放牧移行期のルーメン微生物構成が不安定であることが示唆されます。

ここで一度、以上の話をまとめます。反芻動物が放牧を開始する際には、ルーメン微生物の構成と消化機能が大きく変化することが分かっています。そして一度放牧に慣らした後には、適切な繊維消化と優れた飼料効率を得るために、繊維分解性の豊富な微生物コミュニティを活性高く保つことが大切です。

生きた酵母(サッカロマイセス セルビシエ CNCM I-1077)の給与は、多くの種類の繊維のルーメン内消化率を向上させることが分かっています。 放牧飼料ではどの程度の働きが期待されますか?

ラレマンド社では、生きた酵母サッカロマイセス セルビシエ CNCM I-1077に関する試験を、試験管内および生体内で複数行っています。そしてこの生きた酵母の、特に繊維分解に対する作用機序の理解を深めています。実際に細菌と真菌の定量を行うことによって、生きた酵母が複数の異なる種類の繊維への微生物の付着量を増加させることを明らかにしています。このような生きた酵母の働きが、ルーメン内の全体的な繊維消化率(NDFd)の向上につながっていると考えられます (Chaucheyras-Durand et al., 2016)。

真菌と細菌は、植物細胞壁の分解のために協力し合うことができます。 真菌は、網の目状に伸ばす菌糸によって物理的に植物組織を破壊する働きと、酵素による繊維分解の両方の働きを持っています。一方で細菌は、一度繊維片に付着するとCAZymesと呼ばれる一連の糖質関連酵素を産生し、さらに繊維を分解します。繊維飼料を給与した動物のルーメン内では、プロトゾアも活性がとても高くなります。近年私たちは、グラスサイレージを含んだ混合飼料を牛に給与し、そのルーメン内容物に含まれる各遺伝子のRNA発現量を調べました。その結果、これらの牛ではプロトゾア由来のCAZymes の発現量が高くなっていることを明らかにしました (Comtet-Marre et al., 2017)。 またラレマンド社では多くの牛を用いて、サイレージ、乾草、わら、放牧草など様々な種類の繊維飼料の、生体内での繊維消化率(NDFd)を測定しています。

その結果、用いる繊維飼料の種類によって程度は異なりますが、生きた酵母(レブセルSC)の給与によって、全体的に繊維消化率が有意に改善することが示されています。 例えば生牧草、イネ科乾草、グラスサイレージでは、繊維消化率 が 2.6~7.9ポイント改善することが確認されました (図 1)。 改善幅の違いは、生きた酵母が影響を与えるルーメンマイクロバイオータやルーメン環境の違いによって説明できるかもしれません。

図 1: 生きた酵母が様々な繊維飼料の消化率に及ぼす影響

(Ding et al., 2014, Sousa et al., 2018, Guedes et al., 2010)

放牧開始時のルーメン微生物バランスをサポートするためには、どの時期から生きた酵母を給与したらよいでしょうか?

急速に発酵する糖質飼料の給与によって引き起こされる、ルーメンpHの低下を元に戻す目的で、生きた酵母を添加した試験があります。この試験では、生きた酵母サッカロマイセス セルビシエ CNCM I-1077 の給与開始から1週間以内に、ルーメンpHに変化が見られたことが示されています (Bach et al., 2007)。先にもお話ししたとおり、餌の変化は、ルーメン微生物にとってどのような場合であってもストレスとなり得ます。混乱を避けるためには、念のために放牧開始の数週間前からルーメンマイクロバイオータの準備を整え始め、放牧期間全体に生きた酵母を給与することが大切です。こうした管理によって、放牧開始時のルーメンマイクロバイオータのバランスの不均衡を抑えることができます。また長い目で見た場合、生きた酵母の給与は繊維の消化率を高く保つことによって、放牧草からより多くのエネルギーを取り出すため、飼料効率の向上に貢献するでしょう。

参考文献

  • Bach et al., 2007. Daily rumen pH pattern of loose-housed dairy cattle as affected by feeding pattern and live yeast supplementation. Animal Feed Science and Technology, 136(1-2), 146-153.
  • Belanche et al., 2019. A multi-kingdom study reveals the plasticity of the rumen microbiota in response to a shift from non-grazing to grazing diets in sheep. Frontiers in microbiology, 10, 122.
  • Chaucheyras‐Durand et al., 2016. Live yeasts enhance fibre degradation in the cow rumen through an increase in plant substrate colonization by fibrolytic bacteria and fungi. Journal of Applied Microbiology, 120(3), 560-570.
  • Comtet-Marre et al., 2017. Metatranscriptomics reveals the active bacterial and eukaryotic fibrolytic communities in the rumen of dairy cow fed a mixed diet. Frontiers in Microbiology, 8: 67.
  • Ding et al., 2014. Effect of Saccharomyces cerevisiae on alfalfa nutrient degradation characteristics and rumen microbial populations of steers fed diets with different concentrate-to-forage ratios. . Journal of Animal Science and Biotechnology, 5 :24.
  • Guedes et al., 2010. Effects of Saccharomyces cerevisiae yeast CNCM I-1077 on ruminal fermentation and fibre degradation. CECAV Portugal. Proceeding from Wageningen Symposium, Netherlands pp 25-30.
  • Guo et al., 2020. Characterization of the rumen microbiota and volatile fatty acid profiles of weaned goat kids under shrub-grassland grazing and indoor feeding. Animals, 10(2), 176.
  • Sousa et al., 2018. Live yeast supplementation improves rumen fibre degradation incattle grazing tropical pastures throughout the year. Animal Feed Science and Technology, 236:149-158.

投稿日 Mar 10, 2021 | 最終更新日 May 31, 2023

レブセルSC乳牛肉牛